ペトル「オルガの犯行は、特定の人物への復讐ではなく、社会に対する攻撃でした。この世界を終わらせたい。彼女はそんな恐ろしい考えに取り憑かれてしまったんです」

トマーシュ「オルガは少女時代にも自殺未遂をしているし、自分が死刑になることを望んで犯行に走ったわけだから、彼女の行為は『拡大自殺』と呼べるでしょうね。日本では秋葉原事件が起き、世界各地でも似たような事件が起きています。この映画が日本でも公開され、こうした問題について考え、話し合えることはとても意味のあることだと感じています」

 両監督は「日本で起きた秋葉原事件は、もう映画化された?」と興味深そうに尋ねてきた。2008年に7人の死者を出した「秋葉原通り魔事件」は、派遣社員のシビアな労働事情を描いた大森立嗣監督による『ぼっちゃん』(12)、被害者遺族側の視点から描いた廣木隆一監督の『RIVER』(12)などが制作されているが、まだ決定版といえる作品は生まれていない。

 神奈川県で起きた相模原障がい者施設殺傷事件(2016年)、京都アニメーション放火殺人事件(2019年)、大阪・北新地ビル放火殺人事件(2021年)などの凶悪犯罪が相次ぐ日本では、一連の無差別大量殺人を客観視することができない状況が続いている。自由を奪われたチェコと同じような重い空気が、今の日本を覆っているかのようだ。

『私、オルガ・ヘプナロヴァー』
原作/ロマン・ツィーレク 監督/トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ
出演/ミハリナ・オルシャニスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリーシコヴァー、マルチン・ペフラート、マルタ・マズレク
配給/クレプスキュール フィルム 4月29日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
olga.crepuscule-films.com