冗談っぽく語る2人だったが、自分の内面を表現する手段を持つことが精神面を落ち着かせる効果があるのは確かだろう。事件から40年以上が経過しているが、トマーシュ&ペトルの両監督は、映画を通してオルガを心の闇から解き放ちたかったのかもしれない。

 孤独な犯罪者オルガ・ヘプナロヴァーを、全身全霊で演じた主演女優ミハリナ・オルシャニスカについても両監督は語ってくれた。

トマーシュ「事件を起こしたオルガは、裁判が始まると『死んだ人のことを残念に思う』など自身の感情を語るようになったんです。でも、それまでのオルガは淡々として、感情を露わにすることはなかった。オルガを演じることは、とても難しかったはずです。ミハリナには『君がやることはすべて正しい。そのつもりで演じてほしい』と頼みました。ミハリナはそれだけの演出で、迷うことなくオルガになって見せたんです」

ペトル「オルガはまるでロボットのように無表情で行動するけれど、先ほど述べたように、彼女の内面はとても豊かでした。ミハリナもその点は留意して演じてくれました。オルガが恋人のイトカの家を訪ねた際に、知らない女性とその子どもがいるのに驚き、傷つきます。その場面のミハリナの演技は秀逸でした。目だけの演技で、オルガはロボットではなく、生身の女性であることを表現してみせたんです。素晴らしい女優だと実感しました」