◆苦しむ姿なんて見たくないはずなのに圧倒される
本作は、「ありとあらゆるタイプの横浜流星の満漢全席」状態になっている。前述した生気ゼロの姿や瞬間的かつ複雑な表情の変化以外でも、幼馴染の女性から聞いた言葉から希望を見出してポロポロと涙を流す姿や、朗らかな笑顔で村のPR活動に勤しむ“普通の好青年”の姿が映し出されたりもするのだから。
ネタバレになるので詳細は伏せておくが、後半ではさらに「推し俳優の苦しむ姿なんて見たくないはずなのに、こういう横浜流星こそがすごいし圧倒される!」と、良い意味でアンビバレントな気持ちにさせてくれる。そのとんでもない展開と、それに見合う横浜流星の鬼気迫るという言葉でも足りない熱演を見ることができる。
表向きは真っ当な正義心を持つ青年でありながら、一歩間違えば狂気に飲み込まれる危うさは『流浪の月』の役柄にも似ている。しかし、本作ではさらにネクストステージに到達したかような、横浜流星の新境地どころか異次元の演技を目の当たりにできたのだ。
さらに壮絶なのが、最悪な育ち方をしたジャイアンのような暴力性を見せる、一ノ瀬ワタル演じる村長の息子との対決シーン。“長回し”で撮られた同シーンは、横浜流星との体格差もあいまって良い意味で絶望的な気分になれる。実際に朝の5時まで撮影が続けられたという、役者たちのメンタルを心配してしまうほどの、こちらもまた二度とは撮れないであろう映像の迫力に、良い意味で恐れ慄いてほしい。
なお、本作は「弱者に対する一方的な暴力の描写がみられる」という理由によりPG12指定(誰でも鑑賞可能だが小学生には保護者の助言や指導が必要)のレーティングがされている。あらかじめ了承の上で、観てほしい。