もうひとりのヒロインとなるのが、カティア役のエンフトール・オィドブジャムツ。女性オーナー役を演じられる女優がモンゴルでは見つからず、かつてモンゴル映画で活躍したエンフトールに白羽の矢が当たった。だが、エンフトールはモンゴルを去り、ドイツへと移住していた。そのため、センゲドルジ監督は手紙をしたため、女優復帰を要請している。

 演技経験のない新人女優とモンゴル映画界の伝説の大女優が初めて顔を合わせるという、本作のストーリーと重なるようなキャスティングだった。

センゲドルジ「エンフトールさんがモンゴル映画で活躍したのは、バヤルツェツェグが生まれる前のことです。エンフトールさんがどんな女優かをまったく知らずに、彼女は共演したわけです。世代も違い、異なる文化で生活してきた2人が、一緒に撮影現場で過ごすことでどう変わっていったのか。ドキュメンタリー的な面白さも、本作にはあると言えるでしょう」

 モンゴルの社会主義時代に青春を過ごしたカティアは、性に関しては非常にオープンだ。自分の考えをなかなか口にできずにいるサロールには、辛辣な言葉も浴びせる。風変わりな客たちにも揉まれ、少しずつタフになっていくサロール。雇用主であるカティアに対して「過去の思い出に生きているだけ」と意見するまでになる。価値観の異なる2人の女性が本音でぶつかり合い、親交を深めていく様子が心地よい。