誰もが経験する「性」をテーマにした作品
モンゴル映画というと大草原を馬が駆けている映画、そんなイメージを『セールス・ガールの考現学』は一新する。本作を企画・脚本・プロデュースも兼ねて撮り上げたのは、センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督。1999年にウランバートルにある映画芸術大学を卒業し、多くの映画やテレビ番組を手掛けてきた。本作は「大阪アジアン映画祭」薬師真珠賞(俳優賞)や「ニューヨーク・アジアンフィルム・フェスティバル」グランプリを受賞するなど国際的に評価されている。
センゲドルジ監督が本作の企画を思いついたきっかけは、2017年にイタリアを旅行した際にアダルトグッズショップを見かけたことだった。まるでコンビニのように日常風景として街に溶け込んでいたことが印象的で、誰もが経験する「性」をテーマにしたドラマを撮ろうと思い立ったそうだ。センゲドルジ監督がリモート取材に応えてくれた。
センゲドルジ「クランクイン前に、ウランバートルにあるアダルトグッズショップを訪ねました。現在のウランバートルには全部で27軒のアダルトグッズショップがあり、すべての店を回りました。どの店も品ぞろえがよく、劇中のサロールが説明していたように、自分の好きな芸能人に似せたラブドールをインターネットで注文できるサービスも用意されていました。店を訪ねるお客たちはちょっと恥ずかしそうに顔を伏せていましたが、みんな裕福そうな人たちでしたね」
戦後のモンゴルは長らくソビエト連邦と親しい関係を保ち、社会主義体制を敷いていたが、1990年から民主化が進み、首都ウランバートルは近代化が目覚ましい。インターネット環境も整い、若い世代はYouTubeを楽しんでいるそうだ。モンゴルの今が描かれた作品となっている。とはいえ、アダルトグッズショップを舞台にした映画の企画を進めるのは、容易ではなかったらしい。