時代の潮流に飲み込まれない独創的なアートフォーム

 ところで、〈ラップと女性〉というテーマで執筆しているこの連載において、なぜ唐突に現在の国内R&Bシーンの概況を論じはじめているのか遅ればせながら補足したい。

 実は、先述した動きを前提としたうえで、ラップの影響も感じさせるような独創的な歌唱を披露する歌い手が出現している動きもあるからだ。傑出した才能として、ここでは2名を挙げよう。

 まずは天性のかすれた声とリズム感を持つMoMo。最小限の音の中で抑制した歌の魅力を展開する能力に秀でているが、特に「Faces」や「Bitter」、「Got It All」といった曲では、トラックの隙間にインパクトのあるワードを置いていく技術が常人離れしている。SSWとして曲制作も行っているからこその作法であり、この才能は他に類を見ないのではないか。そして、MoMoもまたEBISU BATICA「Floating」への出演経験がある。

MoMo「Got It All」

 もうひとりが、Tokyo Gal。もともとラッパーとしての動きは多くのリスナーが知る通りだが、今年の2月にリリースしたアルバム『Flash Back』では、むしろR&Bをベースにラップを放り込むスタイルがこのシンガーの長所をもっとも引き出すのではないかと思わせる充実作だった。