そしてコップに半分のビールを飲んだだけで顔が赤くなり寝てしまう僕は、浴びるほどお酒を飲むことは不可能なのだ。よくもまあここまで嘘だらけの目撃情報を作れたものだ。檜山を知らないにもほどがある。しかし「2ちゃんねる」で本人がこの目撃情報を否定するなんて見たことないし、本人だと思ってもらえない可能性の方が高いので、そのままスルーすることにした。
若干モヤモヤしたまま台本を作成していると、携帯電話が鳴った。マネージャーさんからだ。電話に出ると開口一番「檜山昨日の夜どこにいた?」と。僕は実家に帰っていたことを伝えると、マネージャーさんは渋谷にいたかどうかの確認をしてきたのだ。例のアレだ。「それって2ちゃんねるのやつですよね?」と尋ねると「2ちゃんねる?」と明らかにピンと来ていない。どうやら例の目撃情報を見て電話してきたわけではないらしい。
僕は2ちゃんねるの話を説明すると、どうやらマネージャーさんの情報源は2ちゃんねるではなく、知り合いのマネージャーさんから連絡があったとのこと。知り合いのマネージャーさんが渋谷で後輩芸人らしき若者を引き連れて、酔っぱらって大騒ぎしてる檜山を見たと心配されたらしい。僕は昨日から実家で台本を作っていたと伝えたのだが、どうやらその大騒ぎしていた人物は自分を「檜山」と言っていたらしく、僕が嘘をついているような状況になってしまったが、とにかく事実無根だと訴え続けなんとか信じてもらえたのだが、業界関係者が僕と見間違えたということは、見た目も声も雰囲気も僕に似ており、さらに自分を「檜山」と名乗っているので、間違いなく「他人の空似」ではない。ドッペルゲンガーでもない限り、僕の名を語る「偽物」ということだ。
それから1年後、すっかり「偽物」のことなど頭から消え去っていた頃、フジテレビのトイレでたまたま知り合いの若手俳優さんに会った。お互い「お久しぶりです」的な形式ばった挨拶を交わすと、その俳優さんが「檜山さん、かおりちゃんって女の子知ってます?」と質問してきたのだ。僕はかなり物覚えが悪いので、数回会った程度の人を名前だけで思い出すことは容易ではない。なので「何やってる人?」と聞くと「モデル」をやってる女性だというのだ。僕の交際関係にモデルさんはいない。つまり数回会った程度の人であることは間違いない。