それに平本は、かつて数々の暴露本を出版したにもかかわらず、「オレのメッセージは番組の方針と異なる」とし(※SNSでの発言)、番組での発言もジャニ―氏を擁護する立場だった。「元ジャニーズ」として現役ジャニーズについての記事を一部メディアで執筆したり、元ジャニーズJr.を集めたトークイベントなども行っている平本は、BBC側に対し「ネタを持っている業界人のアテンド」もやったと公言するほど取材に協力的だったわけだが、それでもジャニ―氏を「ファミリー」だとして責めなかったのは、やはりグルーミングによるものなのだろうか。

 もっとも、証言者はいずれもジャニー氏の行為自体があったことは否定していない。このドキュメンタリーとは別に、2011年~2018年頃までジャニーズ事務所に在籍した前田航気も、2021年1月に公開された海外メディア「ARAMA! JAPAN」のインタビューで「彼(ジャニ―氏)との性交渉を望んだジャニーズJr.も中にはいた。なぜなら、誰がデビューするかの決定権を握っていたから。これが虐待のうちに入るのかどうかはわからないが、ジャニーズJr.(の一部)との間で性行為があったことは確か」と発言しており(のちに該当部分が記事から削除)、晩年までジャニ―氏による性加害行為が続いていた可能性は十分高いといえるだろう。

 リベラルなアジア系英国人で、同性愛者であることを公言しているアザー氏が、元ジャニーズJr.に「有名になれるなら(ジャニ―氏の行為を)受け入れる」と言われ、思わず言葉を失うさまは、確かに日本の“異様さ”の一端を示しているだろう。このドキュメンタリーが「感情的」となったのは、疑惑の人物がすでに亡くなっており、刑事事件にもなっておらず、取材に協力してくれる人もほとんどいないがゆえの「選択」だったのかもしれない。ジャニ―氏が今も守られている状況に日本社会が沈黙していることこそ、もっとも残念だと訴えていたアザー氏。その意味では、国内で議論を起こせたことだけでも制作した甲斐があったといえそうだが……。次にアザー氏が突撃すべきは、NHKなのかもしれない。