このドキュメンタリーについて、NHKを始めとした大手国内メディアは基本的に沈黙を保っており、批判の声が上がっている。ジャニ―氏はすでに亡くなっており、刑事事件にもなっていないことから慎重になるのもやむを得ないとの論調もあるが、たとえばアンジャッシュ・渡部建の性スキャンダルの際は行為の子細まで伝えられるなど報道が過熱気味であったことを考えると、優越的地位による性暴力といえる今回の件に対して静観している状況なのは不自然としか言いようがないだろう。

 では日本国外ではどう受け止められているのだろうか。しかし、これが筆者の観測した範囲ではあるが、あまり反響は起こっていないように見える。

 その理由のひとつは、ジャニーズ/J-POPという、世界的にはマイナーな存在の問題を取り上げたこのドキュメンタリーへのアクセスが、まだまだ限られているからだろう。BBCのウェブサイト(iPlayer)でも配信されているが、イギリス国内在住者でないと視聴ができない。英語圏のJ-POPファンのブログをいくつか見たが、イギリス在住でない者は、仕方なくBBCのニュース記事をもとにこの件について議論しているのがほとんどで、なかには合法ではないが視聴できる方法を紹介するものもあった。オンデマンドで気軽に世界中から視聴できる状態になれば、もっと反響は起こるだろうと考える。「文春」とジャニーズ事務所の裁判について(当時の英語圏のメディアでは珍しく)報じていたニューヨーク・タイムズも、現状はこのドキュメンタリーを取り上げていないが、環境が整えば記事にするのではないだろうか。

 海外の反応が薄いもうひとつの理由は、ドキュメンタリーのクオリティにもあるように思われる。BBCのお膝元である英国では、ガーディアン紙やインディペンデント紙などが取り上げているが、5点満点中3点をつけた前者はやや辛口だった。ガーディアン紙の批評家は、この性加害問題について驚きをもって受け止めつつも、取材対象者に対するアザー氏の反応が概ね、「子供じみた怒り方」であったり、最初から疑ってかかり、礼儀や恥といった日本文化をあまり考慮していなかったことを「残念」としている。また、ジャニーズ事務所に正面から突撃した際の態度も「プロらしからぬ」としており、取材姿勢が感情的であると受け止めたようだ。