新型コロナウィルスの影響による会社の倒産や従業員の解雇といったニュースが連日流れていますが、不景気が続くことによって将来の年金はどのような影響を受けるのか不安を感じている人もいるのではないでしょうか。今回は年金の仕組みから新型コロナウィルスの年金への影響を予測してみます。

コロナショックで年金は減るのか?

(写真=PIXTA)

 

あまり知られてはいませんが、年金の財源には現役世代の保険料だけでなく、国庫(税金)と積立金も使われています。積立金とは、保険料のうち使わなかった分を将来のために積み立て、運用しているお金です。

新型コロナウィルスの影響で景気が悪くなり、この積立金の運用で多額の損失が出たため、将来の年金の受給額が減るのではないかというニュースが見られましたが、実際にこの損失は将来の年金にどのぐらい影響するのでしょうか。

2,3年後は一時的に減る恐れも

(写真=PIXTA)

 

2020年度の公的年金の給付額は確定しているので、いますぐ年金の給付額が下がることはありません。しかし、経済の実態は年金の受給額に遅れて反映されます。

具体的には、その年の年金の給付額は、前年の物価変動率と2年前から4年前までの3年間の実質賃金上昇率でその増減が決まります。つまり、今年の新型コロナウィルスの影響による賃金の減少によって、再来年以降の年金額が下がることはありえます。

ただし、あくまでこれは「働いている人の給料が下がるので、年金も下がります」という意味で、はじめにご紹介した運用の損失による影響とは別の問題です。

将来の年金への影響は今のところ少ない

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積立金の運用実績

年金給付の財源には積立金も使われていますが、その内積立金の割合は今後100年間、1割程度と予定されています。つまり、年金の給付金の9割はその年の保険料収入と国庫負担でまかなわれるということです。

実際、2020年3月に発表された「公的年金財政状況報告-平成30年度-の概要」によると、2018年の公的年金の支出額は約53兆円でしたが、その内積立金からの支出は1兆円弱にとどまっています。2014年から2018年の5年間を見ても積立金からの支出は1兆円前後で推移しており、積立金の増減による影響は実はそれほど大きくありません。

また、厚生労働省では長期的な運用利回りの目標を1.7%としていますが、2001年から2018年までの積立金の実質的な運用利回りは2.87%とその目標を大きく上回り、2001年から2019年末までで75兆2,000億円の収益が出ています。結果として2019年末で積立金は約170兆円と、とても大きな額になっているのです。つまり、数年間10兆円規模のマイナスが続いたとしても、当初計画していた年金の受給額が下がるとは考えにくいでしょう。

コロナの影響が長期に渡れば影響も

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もちろん、新型コロナウィルスによる経済の停滞が10年、20年続くようであれば、いずれは積立金が枯渇してしまって将来の年金制度にも影響が出るかもしれません。しかし、記憶に新しいリーマンショックの不況時でも、影響を受けた2008年度には運用利回りが-6.8%になりましたが、翌年には+7.5%と回復しています。今年の状況だけを見て即座に将来の年金が減るということにはならないでしょう。

コロナの影響で年金が大幅に減る可能性は少ない

(写真=PIXTA)

 

年金の積立金の運用に巨大な損失が出たことから、年金制度への不安を煽るようなニュースも見られますが、年金給付における積立金の割合は1割程度と低く、運用で大きな損失が出ても年金が減額される可能性は高くありません。今後も損失が出るたびにニュースになるかもしれませんが、運用は長期に渡って行われるものなので、そういった短期的な損失で不安になる必要はないことは覚えておきましょう。

文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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