石井監督いわく、ジャン=リュック・ゴダール監督の『右側に気をつけろ』(87)、筒井康隆が大学のアカデミズムを笑い飛ばしたベストセラー小説『文学部唯野教授』、石井監督のコメディ映画『逆噴射家族』(84)の原作者である小林よしのりの実録漫画『ゴーマニズム宣言』といったメタ構造の作品もヒントになったとのことだ。

石井「私自身が主演するつもりはありませんでしたが、実際に大学教授の私が演じたほうがいちばん面白くなるだろうと考えたんです。カメラの前で、真っ裸になった気分です(笑)。ゴダール自身が主演した『右側に気をつけろ』も、映画を題材にしたおかしな作品でした。僕の好きなジム・ジャームッシュ、カウリスマキ、川島雄三、鈴木清順監督らと同じオフビートな笑い、どこまでがギャグか真剣なのか分からない世界です。『文学部唯野教授』はしっかり読み込んだわけではありませんが、主人公の唯野教授は筒井康隆さん自身のメタファーでしょう。小林よしのりさんの『ゴーマニズム宣言』もそう。現実の世界をちょっとズラして物語にする。そのズレから生じるおかしさや面白さがあるわけです。現実と虚構がせめぎ合うことで、エネルギーが生じると私は考えているんです」

 大学から逃げ出した石井教授は、森の中で瞑想しながら呟く。「俺はアホだ。アホすぎる。でも、アホだからこそ気づくこともあるんだ」と。思わず吹き出してしまうシーンだが、古代ギリシアの哲学者・ソクラテスが唱えた「無知の知」を石井監督流に言い直したものだ。