優れたコメディアンは、シリアスな演技もできる

 キャスティングのユニークさも、日本の芸能界とは距離を置くアンシュル監督ならではのものだろう。再審に臨む夏奈の苦悶の表情には、加害者としての罪の意識や贖罪を願う心情が滲み出ている。夏奈を演じた松浦りょうの迫真の演技は、今年の日本映画界の大きな収穫と言えそうだ。

アンシュル「松浦りょうさんに初めて会ったのは、『コントラ』が上映された新宿・K’s cinemaでした。主演の円井わんさんと一緒に僕は舞台あいさつしたのですが、松浦さんは映画を観にきてくれていたんです。すでにコロナが流行していたので松浦さんはマスクで口と鼻を隠していましたが、目力のすごさがとても印象に残っていたんです。

 彼女を起用した映画を撮りたいと考え、本作の制作が決まり、オーディションを受けてもらいました。オーディションは3回やり、途中で彼女が泣き崩れるほどハードなものになりました。彼女はラッキーガールではなく、実力で役をつかみ取ったんです」

 沖縄出身でバイリンガルである尚玄には、以前から出演オファーしていたそうだ。髭を伸ばし、体重を増やすなど徹底した役づくりで、尚玄は加害者への復讐心を燃やす父親役に挑んでいる。『ひとよ』『台風一家』(19)でブルーリボン賞助演女優賞を受賞しているMEGUMIは、オーディションを経ての配役だった。

アンシュル「MEGUMIさんは日本では有名な女優であることを僕は知らず、オーディションを受けてもらいましたが、そこでも素晴らしい演技を見せてくれました。藤森慎吾さんは、MEGUMIさんからの推薦です。優れたコメディアンは、シリアスな演技もできることを僕は知っています。僕の期待どおりでした(笑)。