――父親は自殺、兄は小児癌の手術に失敗して片目を失明。母親は統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に全財産を献金し、一家は貧困状態に。統一教会を創立した文鮮明夫婦と祖父・岸信介の代から統一教会に関わっていた安倍元首相を恨み、川上が銃を自作し、射撃訓練するシーンは異様なリアルさを感じさせます。

 「銃をつくるシーンを何でもっと克明に描かないんだ」と批判する人もいました。でもね、銃にこだわりすぎるとおかしな映画になってしまう。詳しく撮ってはいたんですが、映画で見せるのはあの程度でいいと判断したんです。銃は山上がつくったものにほぼ近いものにしています。事件を調べてみると、山上は最初の一発を空に向かって撃ち、安倍の演説を聞きに集まっていた人たちをまず散らし、安倍がひとりになって振り返ったところを狙っているんです。他の人には当たらないように、2発目を撃っている。非常に考えた末での犯行です。そのことも、今回の映画を撮った大きな動機になっています。

――無差別殺人ではなかった。

 そうです。社会への恨みではなく、個人への怨恨だった。怨恨と、怨恨に伴う生理、そして冷静さがないと、ああいう射撃にはなりません。