――2022年7月8日、安倍元首相が奈良で射撃されたニュースは、どのように受け止めたんでしょうか?

 自宅のテレビで知りました。「ん、これは大変なことになったぞ」と思いました。「これで、安倍が死んだら大損害だな」とも思いました。

――足立監督がいう「大損害」とは?

 安倍とトランプが日米のトップに立ったことで、世界の底が抜けた状態になったわけですよ。それまでは影に隠れていた政治的な陰謀も、表に出るようになってきた。そのことに関しては、僕は期待していたんです。安倍は生かしておく必要があったと思っています。マスメディアからは「犯人は知り合いですか?」などと尋ねられました。ふざけんなよと思ったけど、「いや、これは個人的な決起でしょう」と答えていましたけどね。でも、個人での決起の場合、映画として表現すべきだとも考えていたわけです。事件のすぐ後に、映画『止められるか、俺たちを』(18)の脚本を書いた井上淳一くんからも電話があり、「どうします?」と訊くわけですよ。「やる」としか答えようがありません。井上くんたちは関東大震災直後に起きた虐殺事件を扱った『福田村事件』(2023年公開予定)の制作中だったので、「ひとりでもやる」とね。