永山死刑囚との共通点と違い

――安倍元首相を射殺した山上徹也容疑者、4人を無差別射殺した永山則夫死刑囚、どちらも幼い頃からの家庭環境に問題があったことが共通しています。

 そうです。貧困、家庭崩壊。それから母親の愛を求め続けたけれど、母親に捨てられてしまった。さらに永山の場合は故郷の北海道網走に帰っても、どこにも居場所がなかった。母親の喪失、故郷の喪失……。そういう点では、永山のほうが喪失感は大きかったかもしれない。ただし、山上の場合は、家族をなくした喪失感が長年にわたって続いた。永山の場合は怨恨にはならなかったわけだけど、山上の場合は怨恨にまでなっていったんじゃないかな。

――犯行当時、永山死刑囚は19歳、山上容疑者は41歳でした。

 年齢の違いは大きかったと思います。今回、山上と永山はパラレルな関係として描こうという狙いはありました。2つの事件には共通点があった。個人的な決起という点でね。永山の場合、追い詰められて追い詰められて、銃を撃ったわけです。山上も追い詰められて追い詰められたわけだけど、長年にわたる状況が身に染み込んでしまい、いろんな縛りから抜けようと思っても抜け出せれず、何もない空洞状態になってしまっていた。劇中でトーテムポールみたいなものに川上が「俺は奴隷じゃない!」と殴り掛かるシーンがあるけど、川上が殴っているのは自分自身なんですよ。