――銃を完成させ、部屋を出るシーンは印象的です。どのような演出を?
あのシーンは脚本では「踊る、踊る、踊り狂う」と3行だけ書かれていた部分を、タモトくんと2分くらい話し合ってから、撮ったものです。「このシーン、どう演じる?」と尋ねたところ、「自分自身の中身のなさも含めて、すべてを叩き出したい」というから、「叩き出すだけでは足りない。自分にまとわり付くあらゆる制約みたいなものを全部脱ぎ捨てる、払い落とすくらいでやった方がいいんじゃないか」みたいなことを話しました。その後はぶっつけ本番で撮っています。テストなしと知って、カメラマンは慌ててましたけどね(笑)。
――昨年末から上映されている75分の完全版では、上映時間50分だった緊急上映版にはなかったシーンが加わり、ドラマ性が強まったものになっています。
最初から撮影はしていたんですが、イベント上映版にはあえて入れず、シンプルなものにしていたんです。完全版は主人公がなぜ決行したのか、ちゃんと分かるようにしています。僕はね、山上はマザコンだったと思うんです。母親との切っても切れない関係をね、完成版には入れています。
――山上が犯行直前に見たであろう事件現場に向かうまでの風景も、完全版には描かれています。足立監督が撮った『略称・連続射殺魔』を彷彿させました。
そう? あれも最初から撮っていたシーン。『略称・連続射殺魔』は永山則夫が見てきた風景だけを撮ったドキュメンタリー映画だったけど、今回はタモト演じる川上が決行するところも撮っています。川上が決行する直前に何をするのかは考えました。ブルーハーツの曲をもう一度歌うのか、それとも何か音楽を流すのか。これから撃つぞ、決行するぞ、という人間が音楽を聴いて心を落ち着かせるなんてインチキ映画は、日本の青春映画だけですよ。何か決行すると決めたときは、自分自身を確かめようとするだけです。タモトもいい芝居をしてくれました。決行シーンは、僕からは演出することはありませんでした。