よく考えたら、スピルバーグの通常運転
しかし思えばこの、「宣伝文句で期待させる内容と、スピルバーグが本当に撮りたかったもの」が若干ズレているというのは、過去のスピルバーグ作品においてもそれほど珍しいことではない。
たとえば『プライベート・ライアン』(98)。第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台に、7人の兵隊たちが「4兄弟のうち3人が戦死した」気の毒なライアン家の末弟を救出に向かう心温まるストーリーだが、その「感動売り」は表向きだ。
同作最大の見どころは映画冒頭、オマハ・ビーチにおける壮絶なゴア描写だ。煙と土砂が舞う爆発。血で染まる海水。ちぎれ飛ぶ腕や足。はみ出る内臓。すぐ隣で狙撃されて絶命する兵士。大量出血に人体損壊の嵐。これら文字通りの地獄絵図を、揺れまくる主観映像カメラを駆使して撮影した約20分間は、“超絶的に見応えのある残酷シーン”としてスピルバーグの名を映画史に刻んだ。
このように、“見応えのある残酷シーン”をホラー映画やスリラー映画の中ではなく、別の大義名分を掲げた作品に忍ばせるのは、スピルバーグの常套手段だ。
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