1972年のミュンヘンオリンピック事件と、その後のイスラエル諜報特務庁(モサド)による報復作戦を描いた『ミュンヘン』(05)は、イスラエルとパレスチナの憎み合いの連鎖が引き起こす悲劇と虚しさを描いた人間ドラマ……ではあるが、その画的な見どころは別にある。モサドに依頼された暗殺チームが実行する、最高に美しい殺傷だ。

 たとえば、暗殺チームがある報復相手を射殺するシーン。射殺された男は直前に瓶入りの牛乳とワインを買って紙袋に入れて抱えていたため、撃たれた瞬間に白い牛乳と赤いワインが、つまり2色の液体が同時に美しく噴出する。

 撃たれた彼が床に腹ばいで転倒すると、先に落下していた紙袋を体躯が押しつぶし、白と赤2色の液体が周囲の床へ綺麗に飛び出す(その状況が画的に映えるよう、カメラアングルは真上からに切り替わる)。その後、暗殺チームの仲間が現場に銃弾を拾いに来ると、今度は床のアップ。こぼれた白い牛乳が半透明状態で覆っている床に、今度は赤いワインならぬ赤い血がゆっくり侵食していく。美しすぎる。