次の例を見てみましょう。

How do we get to the place called soul when we fell trapped in our lives?

宮崎の修正前の訳:「人生に行き詰まったとき、どうすれば魂にたどりつけるだろうか」

ここではsoulをどう訳すかが問題になります。ご存じのとおり、soulは「魂」と訳されることの多い単語です。他に良い訳語がないかを熟慮する前についつい「魂」と訳してしまったのですが、日本語では一般の書籍で「魂」という言葉を使うことはそれほど多くないのではないのでしょう。編集者から「どうすれば魂にたどりつけるだろうか」の箇所の修正を求められました。そこで以下のように修正しました。

宮崎の修正後の訳:「人生に行き詰まったとき、どうすれば本当の自分を取り戻せるだろうか」

もう1つ例を見てみましょう。ここでもsoul が出てきています。「魂」以外のわかりやすい訳語を使いたくなりますが、ここでは「魂」と訳したほうがむしろ良さそうです。しかし、2文目のsoulful guidanceがくせ者です。どう訳せばいいか考えてみてください。

It is sad that more of us do not realize that the soul has a voice that calls and guides us throughout our lives. The good news is that more people are turning within for soulful guidance.

宮崎の修正前の訳:「魂は常に私たちに語りかけ、導いてくれている。そんな魂に気づかない人が多くなっていることは悲しいことである。ただ、霊的な指針を心の中に求めている人が多くなっていることは喜ばしいことである」

私は最初、soulful guidanceを「霊的な指針」と訳したのですが、編集者から修正を求められました。たしかに日本語として「霊的な指針」は仰々しいですね。そこで頭をひねり、修正したのが次の訳文です。

宮崎の修正後の訳:「魂は常に私たちに語りかけ、導いてくれている。そんな魂の声に気づかない人が多くなっていることは悲しいことである。ただ、多くの人が自らの内なる声に耳を傾けようとしはじていることは喜ばしいことである」

「英語として読めばスッと理解できても、日本語にするとぎこちなくなる抽象的な概念をたくさん扱った本」を訳す場合は、いったん訳した後しばらく時間を空けてから、(原著と対照してではなく)訳文だけを「日本語として自然な表現になっているか」という視点から再検討してみるといいでしょう。

今回は、お恥ずかしながらも、若かりし頃の私の訳書から実例をあげて検討してみました。


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