老後破綻は現役時代の収入の少なさや退職金の減額が原因と思っている人もいますが、実は生活水準を落とせないことが引き起こすケースが多いのです。今回は一見は何不自由ない夫婦が生活水準を落とせなかったばかりに老後の生活が困窮してしまう事例をご紹介します。
50代で手取り50万、退職金が3,000万円で老後は楽勝のはずが
老後のリタイアメントプランの相談に来られたEさん(56歳)は大企業で部長職にあり、毎月の給与は手取りで約50万円でした。そのほか、ボーナスは年間約280万円出ます。
お子さんは2人いますが、今はどちらも独立しており教育費の心配はありません。また、総務部に問い合わせてもらったところ、退職金は確定給付企業年金で3,000万円程度出るとのこと。贅沢さえしなければ老後はさほど心配する必要はないと思われました。
しかし、あと4年で定年を迎えるにもかかわらず、貯金が200万円しかないのが気になります。しばらく家計簿をつけてもらい、支出を詳しく見ることにしました。
趣味や交際費が膨らみ支出が月57万円に
自分たちの支出は月45万円ぐらいではないかと言っていましたが、実際に数値にしてみると月平均57万円で完全な赤字です。聞けばEさんが管理職になった頃からだんだんと出費が増え始め、さらに子供が独立してから趣味・交際費にお金を使うようになったと言います。
車2台の維持費が年間100万円かかるのに加え、子供が独立してから飼い始めた犬2匹に月7万円、夫婦で始めたゴルフに月5万円など、毎月必ずかかる費用が高額です。中でも45歳のときに組んだ月々15万円のローンは70歳まで続きます。
Eさん夫婦は給与口座1つで家計を管理しており、毎月赤字が出ていてもボーナスで補填されていたので、自分たちの家計に問題があると気づいていなかったのです。
退職後生活できるのは10年足らずという予測に
60歳以降再雇用制度を利用すると言っていますが、働くとしても給料・ボーナスは大幅に下がります。今のままの生活水準を続ければ60歳以降は年間300万円以上の赤字なので、いくら退職金が3,000万円出ても10年でなくなる計算です。
このことを伝え、生活水準を下げるべくいろいろとご提案しましたが、夫婦ともに難色を示されました。ペットの費用は今さらどうしようもないですし、車は手放せない、ゴルフは夫婦唯一の共通の趣味だからなど。問題は夫婦ともに贅沢な生活をしているという自覚がなく、節約できるところはほとんどないと考えているところです。このままでは老後破綻まっしぐらですが、まだ現実を受け入れられないのです。
Eさん夫婦は金銭感覚がおかしくなっている特殊なケースに見えますが、実はこういった生活水準を下げられない人は多くいます。共通した特徴は、月々の収支がマイナスなのに、ボーナスや貯金の取り崩しでなんとかなっているため、赤字に鈍感になっている家計です。
収入が下がったときはたとえ一時的でも、そのときの手取り月収の範囲で生活できるよう、生活規模を変えなければなりません。収入が上がると支出も増えますが、それでも手取り以上に増やすと当然お金は減る一方です。ましてや将来収入が減ることはわかっているのですから、それに向けて生活水準を調整し、現役時代から余ったお金を貯金することが大切なのです。
強制的にお金を積み立てるのも1つの方法
老後資金を今から貯めるのであれば、iDeCoなど60歳まで引き出せない制度を利用するのも1つの方法です。しかし、今の収入に関わらず、自分の月々の手取り内で生活するというルールは必ず守りましょう。
その時々のリミットを超えないという習慣がついていないと、定期的に積み立てなどを始めても、積立金額の分支出が増えるだけでしょう。自分が今の収入のレベルに合った生活を送っているか、いま一度確認してみてください。
文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
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