◆綱吉を驚かせ笑い泣きさせた、若き吉宗の言葉
徳子ともと(のちの柳沢吉保)の幼少期からスタートした第7話だったが、吉保(倉科カナ)もそれだけで語りたいくらいのキャラクターである。ラスト、「“佐だけ”が欲徳のない慈しみを教えてくれた」と言われたときの吉保の気持ちは、想像するのを拒否したくなるほどキツイ。悲劇と捉えるとどこまでも悲劇だった綱吉編。だが、吉保は忠義の人であり、死期の迫る綱吉を、彼女が選んだ右衛門佐のもとへと、最後の務めとして吉保は自分で送った。吉保は吉保で、忠義を貫いたのだと思いたい。そして綱吉は、恋した右衛門佐の元へやっと旅立てた。
さて、最後に振り返って考えたいのが、仲の絶妙なさじ加減によって、より響いた若き吉宗(信)との出会いのシーンである。「信は美しい男にまったく興味がないのでございます。美しい男に興味がない信がいるということは、美しい女に興味のない男もいるはずにございます」と言う信に、「思ってもみなんだ」と笑い泣きする綱吉。
綱吉は、多くの男に惚れられる自分になろうとしたが、自分は何に惹かれるのか、自分は何を好きなのか、ひいては自分自身と向き合うタイミングを逸した。学問という大好きなものがあったのに(十分身につけてはいるのだが)。結果として、綱吉は右衛門佐と出会うことによって、自分とも出会い直すことができた。時間がかかったとしても。信の、ルッキズムの問題に留まらない言葉は、画面を超えてドキリと、ズシリと届く。この年齢にして、周りに流されず己を見つめていた吉宗の世が、第8話から本格登場する。
<文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi