◆何かを残さなければ、この世に生まれてきた意味はないのか
本パラレルワールドでも忠臣蔵事件が発生。綱吉によって赤穂浪士たちに切腹が命ぜられた。さらに評判ダダ下がりの綱吉に、右衛門佐が「こたびこそ、生類憐みの御触れを取り下げてみてはいかがでしょうか」と進言すると、綱吉は烈火のごとき怒りを見せた。かつての野心に燃えたそれとは違う真摯な進言であり、綱吉もそれをよく分かっている。だからこそ、「図に乗るなよ!」のひと言で右衛門佐を圧倒したかつてとは、明らかに違う動揺を露わにした。
再び、右衛門佐との時間。「父上だけが欲徳抜きで私を慈しんでくれた」と語る綱吉に「慈しみとすり替え、すがっている上様が哀れでなりません」と右衛門佐が突く。すでに体では分かっていただろう綱吉に、右衛門佐が言葉として表に出し、残酷な、しかし厳然たる事実を認識させた。
そんな折、綱吉が命を狙われる。刺客に「国中みんなが貴様の死を願うておるわ」と言葉を吐かれた綱吉は、「何一つ後世に残せなかった。私はなんのために生まれてきたのか」と涙を流す。ここで綱吉に右衛門佐がかけた「生きなさい」は、「生きてください」でもあったのだろう。そして「生きるということは、ただ子孫を残し、家の血を繋いでいくことだけではありますまい」との言葉に「いやじゃ!」と綱吉が答えたとき、右衛門佐の瞳からも、大粒の涙がこぼれていた。綱吉、否、徳子も右衛門佐もすべてを裸にして、さらけ出していた。