――宇多田さんのデビューに衝撃を受けたということですが、“宇多田ヒカルのR&B”のどこがすごかったのでしょうか。
何を言ってるかわかんないような雰囲気っぽい言葉でR&Bっぽい曲を作るのって全然できますけど、聞き取りやすくて、かつ短編小説を読んでるみたいにちゃんと起承転結がある、比喩表現もしっかりしている歌詞でR&Bを作るっていうところをすごくリスペクトしてますね。宇多田さんは英語もネイティブですけど、しっかり日本語で、必要なところだけというか、表現として曖昧にしたいところをわざと英語にしてみたりとか、その使い分けが本当に素晴らしいなって思います。たとえば「First Love」でいうと、「タバコのflavor」って匂いでもあるし味でもあるんですけど、それを味とか匂いって言っちゃうと直接的だけど、flavorっていうとなんかぼやけて想像を掻き立てる。そういう使い分けって、今はネイティブの人たちもたくさんいるんでみんなけっこう普通にやってますけど、当時は多分ほかに誰もいなかったんじゃないかなって思います。
――音に対する言葉の載せ方も衝撃的でした。
僕らが作曲をするっていう行為で、ダンス&ボーカルとかラッパーとかが定番でやるのが、トラックを作ってもらってメロディを乗せていくっていう作業なんですけど、宇多田さんはそれをもうあの『First Love』の時にはもうやってらっしゃってて。『First Love』の15周年記念ボックスのボーナストラックにデモ音源があったじゃないですか。あれを聞いて、今僕らがやってることをすでにやってるなと思って。それを15歳とかでスタジオに入ってやってるっていう、この異次元感を目の当たりにして、すごいなと思って……。だからかなり先を行ってらっしゃったというか。基礎を全部作ってしまわれたっていう感じはありますね。