スキー旅行でフレンチアルプスの高級ホテルに宿泊している裕福な4人家族。滞在2日目、一家がレストランの屋外デッキで食事をしていると、雪崩が発生する。実は人工雪崩の雪煙がやや派手に舞っただけで客は全員無事だったが、父親にして家長のトマスは雪崩発生の瞬間、妻や子供たちを守らず一人で一目散に逃げてしまっていた。目の前でそれを目撃し、大きな不信感を抱いた妻と子供たちとの地獄の4日間が描かれる。

 ここでの「トカゲのおっさん」としてのトマスは、妻からいくら責められようとも、自分がヘタレで逃げたという事実をどうしても認められない。認めたくない。言葉巧みに責任回避し、保身に走る。ひとこと謝罪すればいいものを、それはできない。 謝るのは、旧来的な“男らしさ”から外れる行為だという考えにとらわれているからだ。完全に「謝ったら死ぬ病」にかかっている。

 最終的には「被害者は君だけじゃない、僕もだ」と謎の論理を振りかざして、自分のプライドを守ることに専心するが、とてつもなく惨めでみっともない。その態度こそ、彼が守ろうとしているカギカッコ付きの”男らしさ”の対極にあることに、絶望的に気づいていない。

『フレンチアルプスで起きたこと』は『ごっつええ感じ』みも強い。