有害な男らしさ

 「トカゲのおっさん」は番組終盤期に全部で10数本作られた連作コントだが、ここで挙げたいのは1996年7月に放送された1本目。CMを挟んで、なんと約37分もの尺がある。松本扮する半身半獣の“トカゲのおっさん“(人語を解する野外生活者)が、「男」として母子家庭(母親:板尾創路、息子:浜田雅功)の母親と結ばれたいと願い、「夫+父親」のポジションをどうにかして獲得しようと必死になる様子を、1シチュエーション、超長回し(途中で撮影を止めない)で描かれた。

 同コントは、よく「中年の悲哀が描かれている」と評されるが、もう少し詳しく説明するなら、「社会的に男らしくありたいし、そう振る舞おうとするものの、自らの器や度量が足りていないために、惨めさと滑稽さが露呈してしまう男性の話」である。

 「トカゲのおっさん」がすごいのは、滑稽な状況が連続するわかりやすい大衆向けコントとしても十分に成立していながら、凄まじい精度で「社会的に規定された男らしさに苦しめられる男性」を描写している点にある(ただし2本目以降、その批評性は徐々に萎み、ドラマ仕立ての普通のシチュエーションコントに近づいていった)。