「トカゲのおっさん」とは、知っている方には今さら説明するまでもないが、ダウンタウンの冠番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系、1991~97年)内で放送されていた連作コントである。

 これまた知っている方には説明するまでもないが、『ごっつええ感じ』は、現在一線級で活躍するお笑い芸人の中で影響を受けていない者はいないのではないかというくらい、革命的なバラエティ番組だった。中でも、特に語り草になっているのがコントである。

 『ごっつええ感じ』のコントには、それまでの日本のお笑いにはあまり見られなかったシュールさや不条理、巧みな比喩に隠された批評性や毒気のある風刺があった。時に文学的ですらある野心的・実験的コントも多数作られ、日本におけるコントの地位を飛躍的に高めたばかりか、笑いの「範囲」までも拡大したと言っていい。困惑や気まずさや混沌とした状況までも、笑いに昇華できることを証明したのだ。

 ひとつひとつのコントは無論、演者と作家と演出家の共同作品だが、それら全体に松本人志の圧倒的な天才性が作用していたのは、言うまでもない。映画に引き寄せて形容するなら、『ごっつええ感じ』のコントは紛れもなく、お笑い界のヌーヴェルヴァーグだった。

 そのコントの中でひときわ伝説化しているのが、「トカゲのおっさん」シリーズである。