面白い脚本を、演出でより面白くする城定監督

 「城定作品にハズれなし」という言葉が映画マニアの間にはあるが、映画館と映画づくりをモチーフにした『銀平町シネマブルース』は、いつも以上に城定監督の魅力が詰まった作品となっている。オリジナルビデオ映画の傑作『デコトラ☆ギャル奈美』(08)など、城定監督と長年タッグを組んでいる制作会社「レオーネ」の久保和明プロデューサーに、城定作品の魅力を聞いた。

久保「城定監督が助監督だった頃から彼の仕事ぶりを見てきましたが、どうすれば作品がより面白くなるかを常に考えている人ですね。低予算映画だとスタッフも少なかったので、彼が小道具や美術までやって、それができちゃう人でした。監督になり、予算も少しずつ増え、担当のスタッフに任せるようになりましたが、どの作品も面白いものにしようという姿勢は変わりません。低予算の作品であっても、予算のある作品の場合でもそうです。一作一作が勝負のつもりで、決して手を抜くことがないのが城定監督です」

 城定監督は脚本家としての評価も高い。近年も今泉力哉監督に『猫は逃げた』(21)、安川有果監督に『よだかの片想い』(21)のシナリオを提供している。逆に他の脚本家から提供されたシナリオの場合は、そのシナリオのよさを損なうことなく、現場での演出でより面白くしてしまう。城定マジックがひと振りされた映画は、多くの人を心地よく酔わせる。

久保「脚本は映画にとっての設計図なので、脚本を尊重するのは当然ですが、城定監督は撮影現場の状況を見て脚本を変えることもありましたし、映画がよくなると思えばキャストがしゃべりやすいように台詞を変えることも多々あります。今回だと、映写技師役の渡辺裕之さんと小出さんが男同士でダンスを踊るシーンがあります。いまおかさんが書いた準備稿では1回だけですが、ダンスシーンがとても印象的だったことから、別のシーンでもう一度踊ってもらっています。撮影稿にする際に、城定監督が加筆したんです。撮影後に亡くなった渡辺さんのことが偲ばれる、とても感慨深いシーンになったと思います。ホームレス役の宇野祥平さんがいい映画を観た後は必ずある仕草をするというくだりも、いまおかさんの脚本にはなかったものです。撮影現場の様子を見極めて、より面白くするのが城定監督です」