――運賃を上げるわけにはいかないんでしょうか? そもそも客数が少なければ多少値上げしたところで焼け石に水かもしれませんが。
小笠原 難しいと思います。どこも非常に安価な価格設定で、それが当たり前になっている。
私がいま住んでいる栃木県では、来年宇都宮市で新たに路面電車(LRT:Light Rail Transit)が開業予定です。個人的には都市経営の新しい切り札としてたいへん頑張ってほしいと願っているんですが、開業が2度延長になって工事費が当初予算から1.5倍くらいまで膨れ上がっています。公共交通機関は本来、コストをかなり厳密に見て「これくらいの予算がかかるけど、乗客見込み数がこれくらいなので、◯年かけて回収します」という仕組みをとっています。でも工事費がかなり膨らんだせいで、今後いくら乗客を乗せても採算が合うのかわからなくなるのではという不安が広がっています。LRT建設についてはこれまでもたびたび宇都宮市政における争点になっています。
――なぜそんな予算超過に……。
小笠原 公共工事には不確定要素が多いのは仕方ないことではあるのですが、市の発表や報道を見るに想定外の出来事が多かったということのようです。開業延期も大きいですが、鬼怒川を渡る橋を新たに建設する中での地盤改良工事等に追加の予算がかかったとありますね。
もともと宇都宮は周囲に自動車生産工場や部品生産を行う企業も多数立地している自動車交通の街で、しかも鉄道は基本的に南北にしか走っていません。それを横につないで利便性を向上するという理念はすごく真っ当です。だから私も応援しているんですが、開業前からかなり苦しい状態になっていてたいへん心配しています。宇都宮LRTも、稼ぐ手段としての公共交通機関と、公共政策としての公共交通機関の落とし所はどこなのかという問題を示してくれています。宇都宮LRTは試運転で脱線をしてしまったりと各所が心配していますが、どうにか経営では安全運転を心がけてほしいものですね。