そして、インドの映画市場は大きすぎるのです。これは日本も同じかと思うのですが、国内市場ファーストで、海外はその次になっています。そのため、海外市場向けに作品を作ろうというインドの映画人は、まだそれほどいないように思えます。

ディール・モーマーヤー(以下、ディール):私も、インドという国を外側から見たときに、ステレオタイプが蔓延しているのだということを実感します。決して歌と踊りがインドの現実を反映しているわけではありませんが、私たちがインド人だからといって、何もいきなり歌って踊り出したりするわけではありません。
 
 それぞれの国の映画にはブランドイメージがあって、ハリウッドの場合はアクションやアドベンチャー、韓国は恋愛やバイオレンスと思われていても、実際にはもちろんそれだけではないのです。そのイメージに悩んでいる映画人も多くいます。

 たとえば、日本は「ヤクザだらけ」という映画のイメージがあっても、そうではないですよね。それと、インドにおいての「歌と踊り」のイメージは同じことなのです。

 だからこそ、新しいインド映画のブランドを作っていかなければならない責任が私たちにはあると思っています。例えばイタリアの場合、40年から50年代にかけてネオリアリズムというものがあったように、現実の延長線上にある物語をもっと作っていったほうがいいと思うこともあります。

 その点で、ナリンの場合は、インド国内や海外に住むインド人をターゲットにした映画作りではなく、インド以外の国の人に届く映画作りをしている、インドでも数少ない監督と言えます。地域の現実を反映した物語作りを徹底しているからこそ、逆にグローバルな作品になっていると思うのです。