かつて取材したCさんは、20代で妻と出会い、2年ほど同棲したのち結婚。しかし妻がなにかにつけCさんに自分の不機嫌をぶつけるようになり、その3年後に離婚した。その際に妻から言われた言葉は、「このままだと私もあなたもダメになると思う」だったという。

 Cさんは当時、妻の言葉の意味がわからなかった。しかし10数年たった今はわかるという。

「同棲中は、仕事にしろ妻との生活にしろ、どうしたら今より良い状態になれるかを日々模索していました。しんどかったけど、妻にしてみれば、必死で奮闘している僕が好ましかったんだと思います。だけど結婚籍後は仕事が安定したこともあって、毎日がルーティンになりました。同じ時間に帰って、同じ時間に同じ量の晩酌をする。土日の過ごしかたも3パターンくらいのローテーション。まだ若かった妻は、それが嫌だったんでしょう」

 親しく長い付き合いの相手だからこそ、成長の停滞や精神的堕落には無性に腹が立つ。自分に向上心があればあるほど、相手との格差に苛立ちが止まらない。音楽家として、表現者として、死ぬまで成長と向上を求めたいコルムにとって、平穏でルーティンな毎日に満足しているパードリックは我慢ならなかったのだ。