同じように、コルムが殴られてボロボロになったパードリックを助けたのは、街で見かけた捨て猫に温かいミルクを買ってやったのと同じ、博愛的思いやりの結果にすぎない。勘違いしたパードリックが悪いのだ。
男は、ただの親切を好意と取り違える。落とした消しゴムを拾ってくれた隣の席の女子を妙に意識してしまう中学生男子のメンタリティは、人によっては一生続くのだ。
『イニシェリン島の精霊』が上手いのは、絶交の原因についてわかりやすい理由が語られないにもかかわらず、物語が進むにつれ、パードリック自身や彼が安住している環境に「根本的な問題」があるからこそ、コルムは距離を置こうとしたのではないか?と観客が徐々に疑問を抱くように作られていることだ。
根本的な問題とは何か。一言でいえば「向上心がない」という罪だ。しかもその罪に、女たちはとても敏感である。