優しい性格の修一が、莉奈のある行動に激昂してしまう。捨てられた犬を、莉奈が拾ってきたためだった。声帯を切り取られ、吠えることもできなくなった犬だった。うまく社会とコミュニケーションが取れない莉奈によく似ている。そのまま放っておけば、処分されてしまうのは確実だった。だが、自身の世話もろくにできない莉奈が、ペットの世話までできるはずがない。修一は理路整然とした言葉で、莉奈の無責任な行動を責める。

 自分のことを愛し、全面的に受け入れてくれていると思っていた修一の常識的な対応に、莉奈は深く傷つくことになる。

 ネコみたいに自由気ままに生きるヒロインと作家を自称する男の物語といえば、トルーマン・カポーティの小説『ティファニーで朝食を』が思い浮かぶ。

「不正直な心を持つくらいなら、癌を抱え込んだほうがまだましよ」