ストーリーテラーがこの世界を動かしていく

ーー本作は「監督自身の物語、ほぼ実話」とのことですが、子ども時代の人との出会いが、のちの人生に影響するということが描かれていると思います。主人公のサマイのように、監督の幼少期にも、映画技師のファザルさんのような大人との出会いがあったのでしょうか?

パン・ナリン監督(以下、ナリン):ファザルさんのモデルになった、モハメドという映画技師で年上の友人がいました。作中で描いたように、実際にお弁当を一緒に食べていたこともあります。

 ただ、映画を無料で見ることができたのは、劇場にたくさんいるハトを追い払えば観させてもらえる環境だったので、作中のように無断で忍び込んでいたわけではありません(笑)。

 モハメドは3代にもわたる映写技師の家系で、読み書きこそできませんでしたが、いつも格言のようなことを私に教えてくれました。そのひとつが、作中にもある「(ストーリーの)語り手にこそ未来はある」という言葉でした。

 彼の哲学のひとつに、賢いストーリーテラーがこの世界を動かしていくというものがあったのです。確かに思ってみれば、富裕層や政治家もストーリーテリングによって、富を得たり、それを隠したり、票を獲得している側面もあると感じました。