Ⅲ. 表現者同士の交流
同時に、ラップ/歌唱の鋭い試みは表現者同士の交流によっても生まれる。女性アーティストはこれまでも、特定のコミュニティを飛び越えた形での自由なコラボレーションによって創意工夫を磨いてきた歴史があるが、2022年もそのフットワークは継続された。
制作にJP THE WAVYを起用したMoli Calliope「I’m Greedy」はこれまでにないヒップホップ然としたリリックが彼女の攻撃的なフロウを引き出しており、Georgia Kuを起用したFAKYは「Choco Fudge」で大人びた歌唱が開花した。
海外勢との協働はほかにも多数見られ、six impalaと組んだMANONは「TROLL ME」でスクリームに絡むキュートに切り刻んだ声を披露し、Alex Lustigを招いたkiki vivi lilyは「Runaway」でかつてのボンジュール鈴木にも接近するかのようなエーテルな空気感を見せた。
蓮沼執太フィルとコラボしたxiangyu「呼応」、柴田聡子が見事な記名性を刻印したRYUTist「オーロラ」やあっこゴリラの「EVERGREEN」も秀逸な楽曲として広く聴かれるべきであろう。SoundCloudと〈Demonia〉等パーティを起点に多くのラッパーとつながり制作を進めているe5の存在感も年間通して目立った。
以上、前編は、ビート/フロウ/コラボレーションという3つの観点で2022年における“女性とラップ”というテーマでの概況を観察していった。次回、後編では男性アーティスト側の動きも捉えた上での同テーマについて論じていきたい。
(後編に続く)