Ⅱ. フロウの実験

 ただ、ラップ/歌唱はもちろんテンポだけで語ることはできない。2022年、もうひとつの目立った動きがフロウの実験である。歌い手の数が爆発的に増えている今、厳密にはフロウはその数だけバリエーションを擁していると言ってよい。

 だが、その中でも特にオリジナリティがあり鮮烈な印象を残したのが7の『7-11』とElle Teresa『Youngin Season2』の両アルバムである。前者は和歌山で暮らす日常の鬱憤とマリファナによる解放感を幼児化したフロウで表現し、後者は地元静岡で日本流のトラップを追求する覚悟を多種多様なフロウで魅せた。

 楽曲単位では、他にも声の表情をビートに合わせ繊細に変化させたCYBER RUI「FEEL THE RAIN feat. Ralph」、ポエトリーラップとシャウトの対比で場面展開を生み出した春ねむり「Bang」、間(ま)のあいたラップに倦怠感あるフロウを織り交ぜたMFS「second thought」、「KARMA feat. Jin Dogg」が話題になったAshleyなどが独創性を発揮した。

 一方、ここに来てキーパーソンになりつつあるのが、柴田聡子である。傑作『ぼちぼち銀河』はラップのフロウに感化された優れたポップ作品であり、特に見事な押韻とともに披露される「雑感」はKID FRSINOのリミックスもリリースされ話題を呼んだ。同じくポップスのフィールドでの目立った演者として、Doulやにしなも挙げられるだろう。にしなの曲「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」では、まさしくラップ以降の歌唱というべき弾んだフロウが観察される。