巧みなビートチョイスと実験的なフロウのバリエーション
Ⅰ. 多種多様なビートの希求
まずひとつは、トラップ/ブーンバップという二軸では捉えきれない、多種多様なビートの希求である。ブーンバップではMICHINO『ContraAtaque』、トラップではElle Teresa『Youngin Season2』という傑作が生まれた一方で、例えばUKドリルは加藤ミリヤ「オトナ白書」からvio moon「kill my enemy」やMEZZ「Gyal Drill」まで幅広くシーンに浸透した。
トレンドのジャージークラブは、LANAが「PULL UP」でファジーなラップを絡めることによって唯一無二のノリを生みTikTokでのバイラルを喚起。ダンスミュージックの導入も急速に進み、Yohji Igarashiとのコラボでクラブライクなベクトルを推し進めたDaoko『MAD』、UKガラージをはじめとしたリズムをエッジィなままに取り入れたMenace無『MENACE』、「ボロボロになって鍵垢にシュッ」といった世相を反映したパンチラインとともにダークでトランシ―なビートへ傾倒したvalknee『vs.』、バイレファンキかけ子と実験に没頭する田島ハルコ『時給5000兆円』など、多くの快作/怪作が生まれている。
興味深いのは、多種多様なビートを導入することで同時にラップにも新たなノリが生まれている点だろう。ビートのBPMが速まるにつれてそれぞれのラッパー/シンガーがより一層多くの言葉を詰めこみ、声色やデリバリーの新たな個性を引き出している。そして当然ながら、そういった試行錯誤はラップミュージックだけに閉じているわけではない。
レゲエ/ダンスホール畑に立脚しながらラップのリズムを組み込んだ775『あたい』、AKANE『Hooked On You』、あるいはR&B畑で奮闘するaimi『Chosen One』にも、小気味良い躍動感ある歌唱が投影されていた。