ちなみに信長が「第六天魔王」を自称していたという話は、イエズス会の宣教師ルイス・フロイスがヨーロッパに宛てた書類に記載されていた情報で、信長の比叡山焼き討ちを批判する(熱心な仏教徒の)武田信玄からの手紙に対し、信長が“ご丁寧”な返信をした際、「第六天魔王」と署名していたという逸話が元ネタです。その手紙の現物がないので真実かは(やや)怪しい話ではあるのですが、仏教の修行を妨げる悪魔をわざわざ名乗ったのは、信長一流の“ブラックジョーク”だったような気が筆者にはします。これもまた、機会があれば詳しくお話しましょう。ただ、『どうする家康』の信長は今のところ、ジョークなど絶対に言いそうにない怖い御仁ですよね。岡田准一さんってあんな恐ろしい声も発することができるのかと思わされました。
最後に、不穏な伏線の存在を感じたので、それについて触れておきたいと思います。劇中で言及された「家康のお腹が弱い」という設定でピンと来た読者もいるでしょうが、元亀3年(1573年)12月22日、徳川・織田の連合軍と、戦国一の猛将・武田信玄率いる武田軍が激突した「三方ヶ原の戦い」において(正しくは「一言坂の戦い」ですが、詳細は後日)、武田勢の猛攻を受けた家康が恐怖のあまり、脱糞したという恐ろしいエピソードが存在します。先日発売した拙著(『本当は怖い江戸徳川史』三笠書房)でも検証しましたが、事実であるかは怪しい部分が多いものの、「神君脱糞伝説」は江戸時代から存在し、歴代の徳川将軍を悩ませたほどでした。11代将軍・家斉のお声がけで、歴史データの改ざんが行われ、「脱糞伝説は嘘だ」という公式発表が出されたくらいです。『おんな城主 直虎』(2017年)では、ナレーションで脱糞について語られただけだったように記憶しますが、『どうする家康』では家康の脱糞の場面が映像化される可能性もあります。松潤ファンの方は覚悟しておいてください。