◆佐野Pの人格を2つに割って、拓郎と恵那になった

――佐野さんがモデルとなっている部分がやはりあるんですね。

佐野:そうかもしれないですね。先日、あるトークイベントであやさんとお話をしたとき、私の人格を2つに割って拓朗と恵那になったという話が出ました。ときには朝9時から打ち合わせを始めて気がついたら日が暮れていたこともあるんですが、ずっと2人で喋っている中で、たぶんあやさんなりに私を通して見るテレビ業界やテレビ局で働く人を想像して作ったんだろうと思います。

恵那と拓朗のバディにしても、ドラマを作るセオリーでは、バディものって普通は凸凹コンビにするじゃないですか。もちろん拓朗と恵那にもそういう部分はあるんですが、例えば2人ともメンタルに不調が来ると、モノが食べられなくなる。同じダメージの出方をするんですね。普通のドラマだったら、おそらくダメージの表出の仕方を、一方は頭痛にするとか、変えると思うんですが、そこは考えていなくて。

私のナイーブな部分と、あまり空気を読まずに「なんでそれ、やっちゃいけないんですか!?」みたいに平気で言っちゃうような部分が2人のキャラクターのベースになっているというのはあると思います。だから、どっちも自分のようだと思うこともあるし、「私だったらそんなこと言わない」と思うこともあるし。あとは、友人の話や同期の話がモザイク状になって組み込まれている気がします。

<“落ち目の女子アナ”恵那は、上司の村井から「おばさん」「更年期」と罵倒されたり、取材した冤罪事件のスクープを局長に潰されたりと、組織の被害者に見える。でも一方で、花形キャスター時代に上っ面の報道をしてきたという“加害者”意識に悩んでもいる。

また、村井も単なるセクハラおやじではない、複雑な内面が徐々に明らかになる。>

エルピス3
恵那の元上司、村井(岡部たかし)(C)カンテレ
◆一人の人間は、そんなに「わかりやすく」ない

――繊細な人、空気を読めない人、セクハラおやじ、といった一面的でわかりやすいキャラクターとして配置していないのも特徴ですね。一人一人に多面性があるのも意識したことですか。

佐野:そうですね。「多様性」とよく言いますけど、多様性より「一人の中の多面性」が重要だと思っていて。

例えば恵那は空気を読む人として描かれていますが、1話で職場カラオケから先に帰るシーンがあります。本当に空気を読むキャラなら先には帰らないですよね。

私の一番の友人に台本を3~4話まで読んでもらったことがあるんですが、恵那の行動原理の統一感のなさについて、「最初はよくわからないと思ったけど、佐野だと思えば理解できる」と言われたんです。何かを説明するためのキャラクターとしてじゃなく、身近な私という人間が抱えている矛盾やアンビバレントな部分を映し取ったというと傲慢ですけど……人間は誰しも多面性があるリアルなキャラクターだととらえれば、理解できると言われて、確かにと。

あやさんの書く作品には、「役割だけ」を持った人がいないなと感じるので、そこは大事にしようと思いましたし、自分もそれはドラマ作りで大事にしてきました。