【今週の一冊】
「こんな数学だったら絶対に嫌いにならなかったのに」ICU高校数学科著、アチーブメント出版、2022年
かつてイギリスの小学校に通っていた頃の私は英語がまったくできず、自己存在感を示せるのは数学と音楽の時間だけだった。当時はまだ数学の授業内容も難易度が高くなく、太刀打ち出来ていたのだ。
しかし、中2で帰国して図形証明問題などが出てきたあたりからだんだん怪しくなってきた。そして高校入試直後に「有理数・無理数」が表れるやとうとう後れをとることに。以来、理系科目からすっかり離れてしまった。一方、通訳デビューしてからは財務や最先端技術など理系分野が多数。もっとしっかり勉強しておけばよかったと思う。
今回ご紹介する本に登場するのは、数学の入試問題が特徴的なことで知られるICU高校。実は私自身、卒業生であり、本書に出てくるような数学問題の「洗礼」は定期テストでたくさん受けてきた。
何しろ数学試験なのか国語の長文読解なのか見分けがつかないぐらいのテストなのだ。私など頭から数学ニガテ人間なので、テストでは文章を読む途中で挫折してしまい、毎回赤点であった。でも、今、こうして本書をめくってみて、もっとまじめに取り組んでいたらきっと数学ワールドを満喫できる人生になっていたのではと感じる。
中でも印象的なのが、いかに初代校長先生がおおらかであられたかということ。私の頃の校長先生だ。開校を控えた当時、数学科の先生が数学入試問題を校長に見せると、「これ、いいですね。きみの案でいきましょう」(p3)と言われたのだそうだ。「真のリーダー」は部下を信じて任せる。これに尽きるのだ。
校長先生は、私たち生徒のことも心から信じておられた。細かいことはおっしゃらず、生徒の自主性に任せ、いつも温かく見守ってくださった。だから私たちは校長先生が大好きだった。
本書の「はじめに」と巻末の「座談会」を読むだけでも、リーダーシップや組織運営がわかる。オススメの一冊。
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