例題8は同じ心理学書からの抜粋した夫婦の対話です。人間の心理には「ペアレント(親の部分)」、「アダルト(大人の部分)」、「チャイルド(子供の部分)」の3つがあることを頭に入れておいてください。

その上で次の情景を思い描いてください。夫が帰宅したところテーブルの上がほこりだらけになっていました。しかし夫は妻をストレートに叱りつけるのではなく、ほこりだらけのテーブルの上に「I love you」と書きました。彼の「ペアレント」は「どうしてテーブルを掃除してないんだ?」と妻を批判しているものの、彼の「チャイルド」は「批判はするけど、怒らないでね」とおねだりをしているのです。その一方で彼の「アダルト」は妻を怒らせないように配慮しつつも、「家の掃除をきちんとやってほしい」と伝えようとしています。それに続くのが次の英文です。

例題8 The outcome would be happy if she shined up the house, met her husband at the door with a cool drink, and told him what a sweet, sentimental, imaginative husband he is: Other husbands just moan and groan – but look what a jewel I’ve got!

ここで気を付けたいのは最後のOther husbands just moan and groan – look what a jewel I’ve gotをどう訳すかです。

ある翻訳者の訳 もし彼女が家をピカピカにし、つめたいおしぼりを持って夫を出迎え、なんてやさしくて想像力に富んだあなたなんでしょうとささやいたりすることになれば、結果は上々ということになるだろう。ほかの夫たちはこれを見てうなり、彼はなんとすばらしい宝石を持ったのだろうと感嘆することになる。

この翻訳者はOther husbands just moan and groan – look what a jewel I’ve got.の箇所を「ほかの夫たちはこれを見てうなり、彼はなんとすばらしい宝石を持ったのだろうと感嘆することになる」と訳していますが、意味が通じるでしょうか。なぜいきなり宝石が出てきているのかがわかりにくいですね。じつはjewelには「大切な人」という意味があり、配偶者や子供のことをこういうことがあります。ただ日本語では「大切な人」とはあまり言わないので、読みやすくするために「いい人」に変えてみました。またここのセリフは奥さんのものですので、それを念頭に訳してみました。

宮崎訳 もし彼女が家の中をすみずみまで綺麗にし、冷たい飲み物を持って夫を出迎え、「あなたは何て優しくて想像力豊かなの。世間の夫はただ文句を言うだけでしょうに。私は何ていい人と結婚できたのでしょう」と言いでもしたら、交流は完璧である。

今回は、(1)直訳すれば不自然な日本語になる場合、(2)わかりやすくするために原書にない言葉を補う場合、(3)英語独特の比喩を日本語として読みやすく訳す場合を実例をあげて考えてみました。


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