3. 犬の歩き方がおかしい場合、考えられる病気

犬の足に関する病気といっても症状はさまざまです。代表的な7つの病気をくわしく見ていきましょう。

1つ目.股関節形成不全

1つ目は、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬に多く発症している遺伝性疾患「股関節形成不全」。腰を左右に振って歩く<モンローウォーク>や横座りが典型的な症状で、両後ろ足で同時に地面を蹴るウサギ跳びのような走り方をすることもあります。症状が軽ければ、消炎鎮痛剤の投与や食事管理で経過観察しますが、重症の場合は外科手術が必要に。

2つ目.肩関節不安定症

2つ目は、トイ・プードルに多く発症している「肩関節不安定症」。中型犬に多く見られますが、小型犬でも発症します。立っている時に前足を少し浮かせる、頭を上下させながら歩くのが主な症状。生まれつき肩関節の形成が悪い場合や、過度の運動で肩関節を慢性的に痛めた場合、肩関節がゆるくなって起こります。休むと痛みは軽減しますが、動くと再発を繰り返します。とくにトイ・プードルでは、肩関節不安定症から肩関節の脱臼に至る症例が多く見られます。軽症の場合は鎮痛剤と運動制限で治療しますが、悪化した場合は手術で固定します。

3つ目.膝蓋骨脱臼

3つ目は、「膝蓋骨脱臼」。膝蓋骨とは膝のお皿のことで、正しい位置から外れてしまった状態を膝蓋骨脱臼といいます。遺伝性のものと、打撲や落下などで起こる後天性のものがあり、遺伝性のものはトイ・プードルやチワワ、ヨークシャー・テリア、豆柴などの小型犬で発生頻度が高くなっています。主な症状は、横になっていて立ち上がった最初の1-2歩で片足を床につけない、走っている時スキップするように片足を着地しない、など。骨格の発育期に脱臼が始まった場合は急速に進み、成犬になってから始まった場合はゆっくり進みますが、肥満や運動の環境によって進行には大きな差が見られます。進行してしまうと手術が必要になりますので、早いうちに膝蓋骨脱臼に気づき、体重管理や床材の変更によって進行を抑えることが重要です。

4つ目.骨関節炎

4つ目は、高齢犬に多く見られる「骨関節炎」。肥満と加齢が主な原因で、一度発症すると完治することができない進行性の関節疾患です。体重の負荷や関節の不安定から関節面の軟骨が摩耗し、骨同士が互いに接触することで発生。関節に痛み、変形、こわばりが生じるため、足を引きずる、きちんとお座りができず足を崩す、などの症状が見られます。基本的に体重管理と運動療法で治療しますが、痛みが強い場合には非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)や関節軟骨の修復を助ける注射薬を使用する場合もあります。グルコサミンやコンドロイチン、抗炎症脂質などのサプリメントが症状緩和に有効な場合もあります。

5つ目.前十字靭帯断裂

5つ目は、「前十字靭帯断裂」。大型犬に多く発生しますが、肥満傾向のある小型犬の発生も増加している病気です。犬は起立時でも膝が一定の角度に屈曲しており、常に後ろ足にある前十字靭帯に負荷がかかっている状態。肥満や加齢によって強度が落ち、前十字靭帯に外力が加わることで発症します。前十字靭帯の傷害は代表的な関節疾患の1つ。大型犬の場合は外科手術が必要になるケースが多くあります。

6つ目.肉球、指の間、爪などの傷や炎症

6つ目は、「肉球、指の間、爪などの傷や炎症」。犬が足を地面につけず浮かしているのは痛みがある証拠ですので、足裏をチェックしてください。肉球に何かが刺さっていたり、指の間が炎症を起こしていたり、ダニが食いついていたり、爪が折れていたり、とさまざまなケースがあります。

7つ目.椎間板ヘルニア

7つ目は、ミニチュア・ダックスフンドでとくに多い「椎間板ヘルニア」。初期段階では、抱っこや背中を触られることを嫌がります。患部が腰椎の場合は、歩くと足がふらつく、引きずる、足先が裏返って足の甲を地面につけている、などの症状が見られます。軽度のうちは鎮痛剤や抗炎症剤の投与と運動制限で症状緩和を図りますが、改善が見られなければ外科手術を行います。

8つ目.その他

上記7つのほか、落下や交通事項による骨折、免疫異常による免疫介在性関節炎、コーギーに多い変性性脊髄症、骨肉腫や脊髄腫瘍をはじめとする腫瘍、加齢が原因で起こる突発性前庭障害、水頭症や認知機能低下といった脳の病気が起因しているケースもあります。
遺伝的な素因に基づく関節疾患は多く、⽝種ごとにどのような疾患にかかりやすいか予備知識を持っていることが⼤切です。問題が⾒つかれば、それに応じた滑らない床対策、段差対策、運動制限、体重管理、サプリメント等の給与を⾏いますが、まずはふだんから写真や動画で撮影したり、スキンシップを大切にしたりして、言葉にできない「痛い」をくみ取ってあげてください。そして少しでも「おかしいな」と感じたら放置せず、すぐ動物病院に連れていきましょう。早期発見が愛犬の痛みを取り除き、病気の改善あるいは進行を遅らせる近道になります。

4. 犬の足腰を守る6つの予防法

滑らない床を作ることや肥満を避けることはすべての足腰疾患に対し、予防的で有効です。また、健全な骨格や筋肉の発達に運動は不可欠ですので、適度な運動を心掛けましょう。

予防法1.滑らない床を作る

滑りにくく、クッション性があるマットで滑らない床を作りましょう。防水加工を施してあるマットやタイルマットを選ぶと、掃除がしやすく、フロアを清潔に保つことができます。

予防法2.ステップやスロープで段差を埋める

ステップや滑り止め加工を施したスロープで段差を埋めると、飛び上がる必要がなくなり、膝や腰への負担を軽減できます。

予防法3.サプリメントで足腰強化

ペット用サプリメントで関節を強化してあげましょう。なお、サプリメントは栄養補助食品ですが、心配な場合は使用前に獣医師にご相談ください。

予防法4.動画や画像で日々記録する

毎日チェックするのは大変。そんな時は週1回でもいいので散歩中や自宅で遊んでいる時、食事中など愛犬の様子やしぐさを撮影して記録しておきましょう。獣医師さんに説明する時にも役立ちます。

予防法5.スキンシップを大切にする

愛犬との触れ合いやマッサージなどを習慣づければ異変にも気づきやすくなります。まずは、優しくなでてあげるだけでも大丈夫。気になる箇所がないかチェックしてあげましょう。

予防法6.体重管理をする

肥満は足腰に負担がかかります。月に1度は体重を測定し、定期的にフードやおやつの内容を見直しましょう。

まとめ

「運動器」の問題は、遺伝的な素因、加齢性の問題、体重管理の問題、運動環境の問題に集約されます。⽝種ごとにどのような疾患にかかりやすいか、年齢のせいとあきらめていないか、肥満にしていないか、安⼼して運動できる環境が⽤意できているかなど、日常生活の在り方を今⼀度⾒つめ直してみることが⼤切です。愛⽝とともに過ごす活動的で楽しい毎⽇は、かけがえのない⽇々になるに違いありません。


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