老後資金の蓄えが充分にある人が退職すると、時間に余裕が生まれてきます。豊かな老後のために投資を始める人も多いようです。しかし、当然ながら投資というのは「確実にお金を増やす方法」ではありません。いくら投資の本などで「安全な運用方法」と書かれていても、実際の投資の難しさや怖さはやってみなければわからないのです。

老後資金3,000万円、退職を機に投資を始めたNさん

(写真=PIXTA)

4年前に64歳で退職したNさんも退職を機に投資を始めた1人でした。ずっと投資に興味はありましたが、もともと慎重な性格なので、しっかり勉強してからでないと始めることができず、先延ばしにしていました。

Nさんは自分の性格上、株や投資信託の値上がりで利益を出すよりは、配当金や分配金、株主優待などでコツコツ資産を増やしていくほうが向いていると考えました。投資をすれば株価は一時的に下がることもあるかもしれません。しかし、「最悪買った時の値段で売ればいい」、「その間配当金などを受け取れれば損はしないだろう」という投資スタンスです。

配当金や分配金も魅力的ですが、Nさんは老後に夫婦でいろいろなところへ旅行に行きたいとも考えていました。そこで、航空会社や旅行会社で株主優待が受けられる銘柄を中心に株式投資を始めます。当初の投資額は200万円程度でしたが、予想以上に株主優待の割引が大きく2年後には投資額は1,000万円ほどになっていました。

コロナショックで株価が4割減

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みなさんご存知のように、2020年に起こったコロナショックで最も影響を受けたのが旅行関係の会社です。Nさんが保有していた会社の株価も大きな影響を受け、3月中旬には4割減、つまり400万円の損失が出てしまいました。

いつコロナが収束するかもわからず、結局Nさんは不安なまま株を持ち続けることに耐えられなくなり、すべて売却することを決心します。この4年間で400万円の老後資金を減らすことになってしまったのです。

「使っていないお金が減る」という現実

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Nさんの投資方法は、そもそも分散投資ができていないという問題がありました。しかし、Nさんのように、投資は長期的な視点で、一時的に損失が出ていても株価が回復するまで待てば安全と思っている人は多いのではないでしょうか。

確かに株や投資信託などは、ずっと保有していればいつか価格が回復するかもしれません。しかし、現実に損失が出ている事実を突きつけられると、ほとんどの人は日常の生活に影響が出るほど大きなストレスを感じます。

2008年にリーマンショックが起こった時、私たちは今でこそ後の経済が回復したことを知っていますが、当時今後の世界経済は立ち直れないのではないかと考えた人はたくさんいたはずです。今年起こったコロナショックも、いつ収束するかわからず、下手をすればさらに損失が出てしまうかもしれないという不安の中、「株価が回復するまで様子を見よう」と考えられる人がどれぐらいいるでしょう。

車を買ったとか、子や孫にプレゼントするのとは違い、投資で失ってしまったお金は自分や家族にとってプラスになるものは何一つありません。

実際損失が出て始めて「損したお金があればいろいろなことができた」とわかります。そうなると、何年後に回復するかもわからない株を持ち続けるより、これ以上損をしたくないという気持ちの方が大きくなるのは仕方のないことなのです。

老後に備えて今から投資の経験を積むことも必要

(写真=PIXTA)

Nさんのケースを運が悪かったというのは簡単ですが、Nさんよりリスクの高い投資をしている人はたくさんいます。将来投資を考えているのであれば、できれば挽回が可能な現役時代に投資をし、損失が出た時の不安など、実際やってみなければわからないさまざまなことを経験しておきましょう。

文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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