工藤:英日、日英はどちらが得意ですか?
ブレイク:どちらが得意というより、両方向同じぐらいだと思います。英語から日本語に訳す場合は、英語の聞き取りはそれほど苦労しません。難しい英語の表現でも伝えようとしている意味はきちんと理解できます。その意味を自分が扱える日本語に当てはめていく感じです。また英語で聞き取れた単語を片っ端から一つ残らずそのまま日本語にしようとしたら、言葉数が多くなって早口で聞き苦しい通訳になってしまうので、英語の段階で字面に惑わされずに意味をしっかり掴んで、日本語に訳出ししないといけないと思っています。
日本語から英語に訳す場合は、もちろん日本語の聞き取りに苦労することがありますが、英語スピーカーにとって自然で聞きやすい訳出しを心がけています。
工藤:パートナーと組まれて仕事をする場合、日頃から気を付けていることはありますか?
ブレイク:パートナーとはお互いになるべくストレスを感じないように心がけています。例えば初めて組む方には、最初に交代方法やメモだしなどについて確認します。今はリモートが増えてお互いサポートする機会は少なくなってしまいましたが、パートナーの意向に沿ったアシストができるよう心掛けています。私が一番後輩だと思うので、とにかく最初にきちんと聞くようにしています。私自身は先輩と組むことで、たくさん学べるしすごくいい影響を受けています。憧れる先輩が多いので、自分の理想としている通訳像が近づいてくるどころか、どんどん遠のいていくようです。
工藤:通訳現場で困ったことはありますか?
ブレイク:やっぱりスピーカーの声が聞こえないというのが一番困ります。最近はリモート通訳が増えてきて直接イヤフォンから音声を取れるのはいいのですが、現場に行って生耳で通訳するのは改めて大変だと思いました。特に今はみんなマスクをしているので聞きとりづらく、自分もマスクをしているので、自分の声が跳ね返ってきて、その上衝立もあるのでよけい聞き取りづらいですね。あと困ったことと言えば、音響や設備のトラブルでしょうか?通訳中は自分自身もテンションも高い状態なので、トラブルがあった時は「今大変なので何とかしてください」と慌ててしまいますが、もっと冷静に伝えないといけないと思っています。
工藤:インハウスからフリーランスになる時は大変でしたか?実は今年7月にMAJIT卒業生を2名COWプロジェクトに迎え、9月からクライアント先でお仕事していただいています。こういうご縁がつながったのもブレイクさんのお陰です。COWプロジェクトはいつか卒業がありますが、その後も同じ業界で仕事をされるので本当のお別れではありません。このプロジェクトを通してたくさん経験を積んでもらい、ご本人の希望するタイミングでフリーランスになっていただいています。ブレイクさんはフリーランスになられた時、大変でしたか?
ブレイク:いいえ、とても自然の流れでした。インハウスの経験を経てフリーランスになったのは、私にとってとてもよかったと思っています。テンナインのコーディネータ−の皆様に「フリーになってもたくさんお願いしたいお仕事がありますよ」と背中を押していただいたので安心してフリーランスの道に進めました。社内通訳の場合はある程度担当する範囲が決まっていますし、連続で同じ議題の会議に入ることもできるので、少しずつスキルアップしながら特定の分野の知識を培っていくことができます。またチーム制でたくさんの通訳者と組ませていただき、先輩のパフォーマンスから多くのことを学ぶことができました。
そういう意味でインハウスでは自分の課題が分かりやすかったのですが、フリーランスの場合は意識しないと自分の問題点を具体的に認識できないまま、ただただ仕事をこなす日々になってしまいがちです。フリーになってから私は1つの案件が終わる度に3つのことを書き出しています。
1つ目は、今日の通訳でうまくできたこと
2つ目は、今日の通訳でうまくできなかったこと
3つ目は、次の仕事でどうするか?
この3点を意識して書き出すだけでも、今後の課題が見えてきます。例えば自分の訳を振り返って「意味は通じたけど、ネイティブでもそんな言い方はあまりしない。もっと分かりやすい訳出をこころがけたい」とか「内容はアウトプットできたけど、早口で分かりづらかった」など書き出して、次の会議では反省点を踏まえて自然な表現を心がけるようにしています。
工藤:ブレイクさんが通訳仲間から「ブレイク先輩」と呼ばれていると聞いたことがありますが、その理由が分かったような気がします(笑)仕事に臨む姿勢が素晴らしいです。
ブレイク:そんなことはありません。きっと私が緊張するタイプだからだと思います。一つでも多くの単語を覚えると、緊張が和らぐような気がするんです。もっと睡眠を取った方がパフォーマンスは上がるのかもしれませが、勉強は好きで、新しい世界を知ることが楽しいです。自分がこの仕事をしなければまったく縁のない世界を知ることができると思うと、勉強していてもそれほど苦になりません。
工藤:ブレイクさんがフリーになられてお忙しくてアサインできない時、お客様の間では「ブレイクロス」という言葉があると聞きました。ブレイクさんは通訳者としてパフォーマンスが高いだけでなく、他の通訳者にはないプラスアルファをお持ちだと思いますが、それはどこに秘密があるのでしょうか?
ブレイク:評価していただけるのはとてもありがたいです。一度こんなことがありました。オンライン上で通訳のご依頼を頂いていたお客様が、先日初めて来日されて対面で通訳をする機会がありました。挨拶をしたら突然「なぜいつも君を指名するか、説明するね」とご自分の好きな通訳スタイルについて説明してくださいました。
ZOOM上ではオーディエンスが通訳チャンネルを選択すると、聞こえるのは通訳の声だけでスピーカーのオリジナルの音声はほとんど聞こえなくなります。そこで例えばスピーカーが3人入れ替わり立ち替わりに話したとしても通訳の声がモノトーンで同じ調子で途切れずに続いた場合、どこでスピーカーが変わったのか?誰が何を発言しているのか?聞いている人にとっては分かりにくくなると言われました。私はスピーカーが変わったらなるべく区切りを入れて声のトーンをほんの少しだけ変えていますし、できる時は話の前に「私は○○です」と発言者の名前を入れるようにしています。通訳者が同じ口調で単調に訳しているとわからなくなるので、そこが本当にありがたいとフィードバックをいただきました。対面での会議では聞いている人は発言者が誰なのかを直接見ることはでき、発言者の声をそのまま聞くことができるので、通訳者はそこまでの情報を声に乗せる必要はないと思いますが、リモート通訳の場合は通訳者の声だけが頼りなので、ある程度そのような情報も含めて伝えることが大事だと思っています。私は日ごろからお客様のリアクションを見ながら訳出しをするように心がけているので、褒めていただいてとても嬉しかったです。
工藤: 「ブレイクロス」という言葉が生まれた背景がよく分かりました。確かに意識すれば誰にでもできることかも知れませんが、その行動はブレイクさんのサービス精神から出てくるんですね。ところでプライベートな時間はどのように過ごされていますか?ご趣味はありますか?
ブレイク:プライベートな時間をしっかり持つことはとても重要だと思いますが、今自分にはそれがあまりできていません。仕事を忘れる時間を作りたいと思っていますが、仕事のことが頭から離れず、結局1日中何かしら仕事に関連することをやってしまうこともあります。また、通訳という仕事は誰かの言葉をずっと訳して声に出すものですが、言葉を発しているからといってもそれが自己表現というわけではありません。通訳以外で自己表現できる場所を見つけるのが今の課題です。今は体つくりとコーヒーの木を育てています。コーヒーの木の成長を見ているだけで癒されますね。これからはそういった時間を増やしていきたいと思います。
工藤:確かに長く仕事を続けるには、仕事以外で自分の場所を見つけるのも大事ですね。私自身も会社設立以来、朝起きた瞬間から寝る時間までずっと仕事のことを考えて疲れていた時期もありました。お気持ちよく分かります。最後にこれから通訳者を目指す人にメッセージをください。
ブレイク:通訳という仕事はとても魅力的です。双方のコミュニケ―ションが成立した時、「あなたが通訳をしてくれてよかった」と言われた時にはとてもやりがいを感じます。普通に生活している限り触れることのない、新しい世界を知ることができます。そのため、どれだけいろんなことに興味が持てるか、そしてそれを楽しく継続して勉強できるかが肝心です。例えば難解な重いテーマでも、自分なりに楽しい切り口を見つけて継続して勉強することができたら、どんなことも苦になりません。まずはとりあえずやってみることが大切だと思います。
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