今週の一冊
「ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。」幡野広志著、ポプラ社、2019年
前回このコーナーでご紹介した岸田奈美さん。彼女が著書の中で紹介していたのが写真家の幡野広志さんです。岸田さんの本の巻末に、お母様と弟さんとの3人で写っている写真があります。その撮影者が幡野さんだったのですね。
幡野さんは2017年に血液のがんと診断され、余命3年を宣告されます。そのことを機に、生き方や人間関係を見直しました。家族は妻と幼い息子です。
がんというのは、誰もがかかりうる病気です。そして一番辛いのは苦しい治療をせねばならぬ患者本人です。しかし、ネックとなるのは、本人以上にがん宣告をパーソナルに受け止める身内だと幡野さんは綴ります。幡野さんの母親は元看護士ですが、息子のがんについて受け入れることができなかったばかりか、昭和的価値観を持つ母親の方が「悲劇の主人公」になってしまい、幡野さんを苦しめました。その結果、幡野さんがとった行動。それは母親との絶縁だったのです。
本書には幡野さんの体験談の他、幡野さん同様にがんに見舞われていたり大変な境遇に置かれたりといった方が3名登場します。いずれも生きづらさや苦しみを抱えています。その根幹にあるのが、親子関係なのだと幡野さんは説きます。
「家族とは『与えられるもの』ではなく、『選ぶもの』なのだ。」「もしも改善の余地がない関係だったとしたら、たとえ親子であっても、その関係を断ち切ってかまわない」(p136)
親に酷い仕打ちをされたり、愚痴を幼いころから聞かされたりという体験は、子どもの「こころにどれだけの傷を蓄積していったか」(p127)と警鐘を鳴らし、「親だって、ひとりの未熟な人間でしかない。聞きわけのいい子どもとして生きることは、親に人生を丸投げしているようなもの」(p160)とも述べています。
親子関係が愛情に満ち、子どもが何歳になっても親の寄り添いがあると安心できることこそ、誰にとっても人生の幸せにつながると私は思います。しかしその一方で、それがもはや破綻してしまっているのであれば、自分で人生を選び直すことが大事です。「誰かに奪われかけた自分の人生を取り戻す」(p201)ことの大切さを、余命宣告された幡野さんは力説します。
人間関係、とりわけ親子の在り方について考えたい方にぜひとも読んでいただきたい一冊です。
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