松本:最新のトレンドはどのように勉強されるのですか?
森田:本を読んだ方がいいというのはありますね。案件を担当する度にお客様から出来るだけ資料をいただくようにしています。参考になるものがあれば全部教えてください、ということは必ず伝えるようにしています。それらを読むのに加えて、背景知識の部分はネットや新聞のニュース素材、官公庁の政府系のサイトがあればそちらも参考にします。そして時間がある時に、とにかく本を読む(笑)。あとは業界の勉強会に参加するなどして、知りたい分野の知識をつけるようにしています。
松本:テンナインで「字幕翻訳といえば森田さん」というぐらい字幕翻訳をお引き受け頂いています。いつ頃から字幕翻訳を受けていらっしゃいますか?また、きっかけは何だったのでしょうか?
森田:おそらく10年前は産業分野の字幕翻訳というものはなかったと思います。記憶をたどると、8年ぐらい前に企業がSNSに動画を載せることができる機能がついたんですね。最初はFacebookだったと思います。企業に限らず、ユーザーが短い動画を自分の投稿に紐づけて再生させることが出来るようになったのが、一番大きな変化だなと思っています。その頃にクライアントから、新しい商品の動画であるとかプロモーションの短い映像をYouTubeに載せて、そこからFacebookに飛ばすような形で出したいと、字幕の依頼が来たのが最初でした。
そもそも字幕はやったことがなかったです。当時は字幕といえば洋画や海外ドラマのイメージしかありませんでした(笑)。なので、字幕には特殊なスキルが必要で、スポッティング(※字幕のIN点・OUT点を打ち出す作業)のための専用ソフトを持っていないといけないですとか、字数の制約などもあって、私には出来ないと思っていたんです。ただお話を聞いてみると、スポッティング専用ソフトは必要なく、ハコ割(※スポッティングと同作業)も割った状態で原稿を頂けて、字数制限もだいたいの制約しかありませんでした。それなら出来なくはないよな、と思って。何よりも世の中に字幕翻訳をやっている人がいなかったと思うんです。全く新しく登場してきたものだったので。やる人がいないなら、誰がやろうが一緒じゃないかと思ってお引き受けしました。「、」や「。」の句読点は使わない、鍵括弧も使わない、1秒4文字など、それこそ字幕に関する当たり前のルールを学ぶところから始まって、試行錯誤でしたね。周りに聞いても同じような経緯の人が多いので、最初は業界全体がそうだったようです。
普通の翻訳とはだいぶ形が違うので、始めた頃は効率が悪くて作業が全然進みませんでした。3回、4回も見直して納品する、ということをやっていました。最初は短い動画が多かったですが、インターネット技術の進歩に伴い、どんどん動画が長くなっていきましたね(笑)。昔は長い動画だとすぐに丸いマークがクルクル回っていて再生できないなんてあったと思います。それが改善されて、一般家庭やスマートフォンで10分20分単位の動画をストリーミングで視聴できるようになってから、頂く動画の分数が増えていきました。
需要が増えていく分野だというのは分かっていたので、スケジュールが許す限りは字幕案件をお引き受けするようにしました。やり続けていたら2019年を迎えたという感じです。やっぱり決定的に業界の需要が増えたなと感じたのは、2019年のパンデミックになってからでした。
松本:テンナインもまさにそのタイミングで字幕のご依頼が増えました。
森田:そうですよね!
森田:2020年の4~5月のスケジュールを見直してみたんですけど、ヨーロッパとアメリカがロックダウンしていた時期は、字幕しかやっていないんですね。2か月間ずっと毎日ひたすら字幕をやっていた時期がありました。今はその頃よりは落ち着いてきていて。対面のイベントも増えてきているように思います。
クライアント側もオンラインの使い方が以前よりスマートになってきた印象です。最初の頃は突然人と会えなくなってしまって、予定していたウェビナーやセミナーなどを全部オンラインでやろうとしていたので、例えば1回60分の講演会を1日5本やるイベントがあったら、それを全部動画にして一人60分しゃべる映像が5本みたいな感じで、膨大な字幕が発生していたんです。 それでは見る側も大変だとユーザーが気づき始めて、最近はコンパクトになってきたように感じます。
松本:先に触れたスポッティングについて、お伺いさせてください。森田さんは今ご自身では特にSST(※字幕制作ソフト「Super Subtitling System」)などの特殊なソフトを使ったり、ご自身でスポッティングの作業を引き受けていらっしゃらないんですよね?
森田:やっていないです。SSTも持っていないです。御社はそれで良いんでしょうか?私も全部やった方がいいのかなとも思ったり…。
松本:理想としては、SSTを持っていてスポッティングもできて、翻訳もできてというのがベストではあるんですけれども、ただ産業翻訳となりますと、翻訳対象分野の専門知識が優先です。例えばドラマのように、ある分野の専門知識が必要なく日常生活から訳を導き出せる、というものではないですよね。医療・金融・マーケティングなど様々な分野の専門知識が出てくるので、なかなかリサーチだけでは難しいと思います。
ですので、我々としては、森田さんのように特定分野の産業翻訳を長く担当されていて、その企業の文化やご希望の訳文スタイルなどの専門知識がある方に、字幕のルールを学んで、字幕翻訳に挑戦していただけるというのは非常にありがたいです。
産業翻訳の字幕は字数制限が厳しくなく、弊社からの依頼は、すでにスポッティング済の原稿をお渡しして作業を行って頂きます。スポッティングは別の作業者さんに依頼が可能なので。また、ある程度は文字数を気にしながら字幕用に訳していただけるように、文字数が自動でカウントされる原稿ファイルをご用意して翻訳者さんにお送りしています。これまで字幕をやったことがない方でも、この記事を読んで、ぜひ挑戦していただきたいですね。
森田:それは本当におっしゃる通りだと思います。 産業字幕もジャンルがいろいろあって、その幅広さが魅力の一つだと思います。プロモーションとか新商品のPRとか、映像素材が多くてイメージが大切なものは、ハコ割りして短い語数で効果的に伝えることが大事です。商品を見て買いたいと思わせる魅力的な言葉選びが、大事になってくると思います。対してウェビナーやシンポジウムみたいなものは、講演者が前を向いてしゃべっているだけなので、見る側も字幕に集中できます。クライアント側もコンパクトにまとめるよりは、全部知りたいというのもあると思います。 だから、字幕のスキルが最初はなかったとしても、むしろ産業翻訳を長年やってきて、その業界の知識がある方が訳したほうが、正確なものができるんじゃないかと思います。
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