例を見てみましょう(ちなみにこれは私が実際に訳した本を自分で推敲した例です)。
(例1)推敲前:人生に行き詰まったとき、どうすれば魂にたどりつけるだろうか。
直訳すると「魂にたどりつけるだろうか」という訳になってしまうのですが、これでは一般読者は分かりづらいでしょう。原文が頭から消えたころに、ここで原著者は何が言いたいのかを再考し、推敲すると次のような訳になりました。
(例1)推敲後:人生に行き詰まったとき、どうすれば本当の自分を取り戻せるだろうか。
ここでのポイントは日本語としてあまり使わない表現は再考するということです。原文で“soul”という言葉が使われているから「魂」と訳していたのですが、これでは一般の読者にはわかりづらくなるため、読みやすく推敲しました。
次の例を見てみましょう。
(例2)推敲前:現状のまま生き続ければ、いずれ皮肉屋になるか、世を拗ねるようになる。
原文にある単語は勝手に省略しないのが原則ですが、原著者によっては似たような言葉を繰り返す癖のある人もいます。文芸翻訳の場合、冗長になると思われ、かつ、削っても原著者が意図することが変わらないようなら冗長な言葉を削るも一つの方法です。ここでは「皮肉屋になる」と「世をすねるようになる」がほぼ同じような意味と考えられるので削ってみましょう。
(例2)推敲後:現状のまま生き続ければ、いずれ世を拗ねるようになる。
(4)日本語として読みにくいところはないかを他人に読んでもらう
知人友人など、訳文を読んでくれる人がいるのであれば、読んでチェックしてもらうのもいいでしょう。本として出版する場合は、当然、編集者の厳しいチェックが入ります。編集者は長年、プロとして本作りに携ってきている人たちですから、読みやすくなっているか否かに非常に敏感になっています。ちなみに、私が編集者にチェックされた例をいくつか挙げてみましょう。
「息子の業績を話す母親たち」→「息子の自慢話をする母親たち」
「彼女は優秀なドイツ人医師で、どういう事情かは知らないが路上生活者になり」→「彼女は優秀者ドイツ人医師だったが、何らかの事情で路上生活者になり」
「船乗りは、風が吹こうが、嵐が来ようが、航海できるようにならなければならない」→「船乗りは、風が吹こうが、嵐が来ようが、航海を続けなければならない」
編集者に提出する段階で、自分なりにベストを尽くして訳したつもりですが、原文が頭の片隅に残っていたため、原文に引きずられた訳になっている箇所が少なからずありました。編集者に推敲の手間をかけないようにすべきですが、手間をかけずに済むほど良質の訳文にしあげるにはそれなりに努力が求められます。チェックしてくれる知人友人を見つけておくのも一つの方法といえるでしょう。
今回は、訳文を推敲する上で重要なポイントをお話ししました。
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