「年金収入だけでは不安」「老後も働き続けたい」という方がぜひ知っておくべきなのが「在職老齢年金」という制度です。年金をもらいながら働いた場合、稼ぐ金額によっては受給できる年金額が減ってしまいます。このしくみについて詳しく解説します。

在職老齢年金とは

(写真=PIXTA)

在職老齢年金は、働きながら老齢厚生年金を受給している60歳以上の方が対象です。一定の金額以上の給与や賞与をもらっている場合には、受給できるはずの年金の一部または全部が受給停止になります。

なお、年金の1階建ての部分である基礎年金(国民年金)にはそのような制度はなく、働いていても収入が多くても全額が支給されます。

28万円・47万円の壁 年金が減額される条件

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年金が減額されるかどうかは、本人の年齢と収入により基準が定められています。年齢が「60歳から65歳まで」の場合は、ざっくり言うと「年金と給与の合計が月額28万円」を超えると年金減額の対象になります。年齢が「65歳以上」になるとその基準が緩和され、「年金と給与の合計が月額47万円」を超えた場合となります。ちなみに、この支給停止基準額は2019年4月に46万円から47万円に変更されました。

厚生労働省の発表によると2019年現在、60歳から64歳で在職しながら年金を受給しているのは120万人で、そのうちの55%にあたる67万人が年金減額の対象となっています。この数は年々減っていますが、それは現在、年金の受給開始年齢が段階的に引き上げられている途中で、2030年には完全に65歳が支給開始年齢になることが決まっているためです。

65歳以上で在職しながら年金を受給しているのは248万人、年金減額の対象になっているのはその17%にあたる41万人で、年金の受給権者全体でみると1.5%となっています。

在職老齢年金の計算方法

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では、いくら稼いだらどのくらい年金が減るのか具体的に見ていきましょう。「年金の基本月額」と「総報酬月額相当額」がポイントです。言葉がわかりにくいのですが、「年金の基本月額」は、もらっている老齢厚生年金(1ヵ月あたりの金額)から加給年金(配偶者や子がいるときの加算)分を引いた金額で、「総報酬月額相当額」は過去1年分の給与と賞与を足したものを12で割るとざっくりとした金額を算出できます。

60歳~64歳の場合

年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円以下であれば、年金の支給停止はなく、全額を受け取ることができます。28万円を超える場合は、以下の計算式で支給停止額を算出します。

・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円以下の場合
基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2

・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円を超える場合
基本月額-総報酬月額相当額÷2

・総報酬月額相当額が47万円を超えていて基本月額が28万円以下の場合
基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}

・総報酬月額相当額が47万円を超えていて基本月額が28万円を超えている場合
基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}
 

65歳以上の場合

65歳以上の場合は上述の基準よりも優しくなり、より年金を多く受け取りやすい計算方法に変わります。まず、年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円以下であれば年金は全額支給されます。47万円を超える場合は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2」で支給停止額がわかります。

年金の減額を防ぐには

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年金を減らしたくないなら、勤務先の会社と相談するなどして給与が基準額を超えない範囲に抑えるという方法もあります。会社員や公務員の場合は、厚生年金に加入することになり制度の対象になるので、業務委託などの形態をとって自営業やフリーランスとして、国民年金だけに加入するようにして回避するという方もいるようです。

ただ、年金が減額になるとはいえ、基本的には一定額を超えた分は賃金が「2」増えれば年金が「1」減るしくみになっているので、扶養家族の「130万円の壁」などと違い、基準を超えた瞬間に手取り収入が急に減ってしまうということはありません。稼げば稼ぐほど総収入は上がりますので、「働き損だからこれ以上は働かない」と考えるより、働けるうちは働いておいた方が金銭的な余裕は出やすいでしょう。

就労意欲が下がることから条件の見直しも

在職老齢年金は、まだ働けるうちは年金に頼らず働いてもらう、年金保険料を納めている現役世代への配慮という側面もあるのですが、「働いたら年金が減るなんて働き損だ」とシニア層の就労意欲を下げてしまう可能性も否めません。

そこで、支給停止条件の見直しが検討されています。65歳以上が年金を全額受け取れる基準を現在の「47万円」から「62万円」まで上げて年金減額の対象者を半数以下に抑える案のほか、完全に制度を撤廃して、働いても稼いでも年金がまったく減らないようにする案も出ています。

在職老齢年金の今後に注目

在職老齢年金の見直しは、高齢者の就労促進や収入増につながるというメリットが挙げられる一方、収入が多い富裕層ばかり有利になるとか、苦しい生活を押して保険料を負担している若い世代にツケを回すことになるなどの批判もあります。

今後、将来に向けて年金制度をどうしていくべきなのか、ちょうど議論が進められているところです。その動向によっては基準の変更や廃止なども十分考えられますので、老後も働きたいと考えている方は注視しておきましょう。

文・馬場愛梨(「貧困女子」脱出アドバイザー/ばばえりFP事務所 代表)

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