暗記に頼らず真の理解を促す「ヒューマンボディラーニング入門編」|清水忍インタビュー

『yoganess』より引用
(画像=『yoganess』より引用)

人体をデフォルメした3Dアニメーションで「丸暗記」から卒業しよう

メジャーリーガーをはじめとするトップアスリートのトレーニング指導に携わる一方、専門学校の教壇に立つなどして教育にも熱意を燃やしてきた清水忍さん。

学生たちに機能解剖学を教える中で、ある違和感を覚えたと言います。

「それは、機能解剖学を『骨や筋肉の名前を覚える暗記科目』として捉える学生があまりに多いということ。そうした学生は、人体の構造や機能を真に理解することなく現場に出て行ってしまうのです。」

こうした問題の背景には、教育のあり方も関係しているようです。

例えば、筋肉における起止と停止の位置や名称を極めて詳細に丸暗記させ、試験でもそうした点ばかりを問うような姿勢の教育機関は少ないと言います。

「学習初期の段階では、そうした極めて詳細な事は大まかに捉えられていれば十分で、『その筋肉が縮んだらどう動くか?』といったことを思い描けるほうがずっと重要です。そのため、私の講義では、身体の各部位が担う役割や動作の原理を中心に伝えるようにしてきました」

これまで清水氏は、IHTAが展開するe-learningコンテンツでも機能解剖学に関する講義を担当してきました。

その上で、「筋肉の動く仕組みが世界で一番分かりやすい動画にしたい」という思いから、2020年のリニューアルに伴って新要素を追加。

それが、本講座のためにオリジナルで開発された3Dモデルアニメーションでした。

「できるだけ極めて詳細な事を省いた上で、人体の動きを分かりやすく表現したアニメーションを取り入れ、直感的に理解できる内容を目指しました。機能解剖学を学ぶときは、まずは全体像をつかむことが大切です。誤解を恐れずに言えば、『分かりにくいリアル』より『分かりやすいデフォルメ』のほうが初学者にとってはベターなのです」

一般的な解剖学のテキストでは筋肉が仔細に描かれていることが多いものの、リアルであればあるほど初学者には動きがイメージしづらく、かえって丸暗記につながってしまうと言います。

本講座の3Dアニメーションでは、制作スタッフも解剖学の基礎を学びながら、ポイントを押さえたシンプルな表現を追求しました。

「車の構造を完璧に理解してから運転を始める人はいないでしょう。まずは『アクセルを踏めば走る』という基本的な原理を知り、そこから『アクセルを踏むとガソリンがエンジンに送られて燃焼が起こるためシリンダーが回転し…』と、詳細な事は後から少しずつ知識を深めていけばいいのです。そうした視点に立ち、人体の構造や機能を知る上で絶対に押さえておきたいポイントを視覚的に提示する本講座は、多くの人の学習に資するものと考えています」

「伝え方の選択肢」を増やして患者さんや顧客を「なるほど!」と納得させることが大切

『yoganess』より引用
(画像=『yoganess』より引用)

「入門」と名付けられていることからも分かる通り、本講座のメインターゲットは機能解剖学を初めて学ぶ人たちです。

「まずは人体の世界を探究する面白さを知ってもらうことが第一。前提知識ゼロの状態でも苦手意識を持つことなく、興味を引き出せるような内容になっていると自負しています」

加えて、清水氏が「隠れターゲット」と位置付けているのが、すでに健康や運動に関わる分野で活動している人たち。

具体的には、スポーツトレーナー、整体師、セラピスト、ヨガインストラクターなどで、自身で勉強するほか、患者さんや顧客への説明にも役立てることができます。

例えば、ハムストリングスを損傷したスポーツパーソンに対して「ケガで筋肉が硬くなると膝が伸びにくくなる」といった教科書通りの説明で済ませていつようではまだまだ…と清水氏は言います。

「断片的な知識を披露するだけでは、『だから何?』と思われて終わりです。人体の構造や機能をしっかりと理解していれば、『膝を曲げるための筋肉であるハムストリングスが硬くなってしまうと膝を曲げたままにしようとしてしまうため、膝を伸びにくくなってしまうのです』というように、その人の状況にひも付けた具体的な説明がいくらでも展開できるようになります」

このように相手に寄り添ったアドバイスを実現するためには、「インプットしたことを分かりやすくアウトプットするスキル」も重要になります。

本講座には、プロとして患者さんや顧客とコミュニケーションするためのヒントがたくさん含まれており、「そういう言い方なら分かってもらえるのか!」という具体的な気づきが得られるでしょう。

「知識豊富で能力の高いトレーナーでも、伝え方で損をしていることは少なくありません。例えば、円の面積の計算をする時に、円周率をまず『3.14』で問題ないと思うのですが、それを小学生に教える時に『円周率は3.141592…』と教える必要はないと思うのです。この時点でそこまで詳しく教える必要はなく、数字に関心を持ってから詳細を教えれば良いと思うのです。相手の知識レベルや興味関心に応じて柔軟に説明の仕方を変えられるよう、ぜひ『伝え方の引き出し』を増やしてください」

まずは本講座の「マネ」から入るのも良いです。

これまでの指導経験をベースにした清水氏の表現は的確かつ実践的で、学んだその日から現場で応用できるはずです。