嗚咽し涙を流す女性は何者?
「その声の主は、私の知らない女性でした。私よりは少々歳が上のようでしたが、叔父よりははるかに歳下の女性でした」
その女性は泣きながら棺に近づいてきます。激しく取り乱し、涙がぽろぽろと棺の上に落ちていきました。
叔母が「あのう、どちらさまですか?」と尋ねました。
叔母の声が耳に入らないのか、それとも聞こえていて無視をしているのか、叔母の声掛けには一切反応せず、嗚咽の勢いは増すばかりです。女性は叔父の安らかに眠る顔に視線をあわせたまま外しません。
「なんと叔母も、親戚の誰も、その女性のことを知らなかったのです」
周囲が困惑からざわつきながらも、時間となり、棺は炉の中へゆっくりとスライドしていき、参列者一同が合掌します。炉が閉まった後に顔を上げ、再び辺りを見回すと、その時には既にその女性の姿はどこにもありませんでした。
小声でつぶやいて去っていった
睦美さんさん提供写真
結局、いったい叔父とはどういった関係だったのかは分からずじまいでした。もちろん、精進落としの席でもその話題でもちきりだったそうです。
「謎の女性の隣に立っていた甥っ子の話によると、その女性は涙混じりの小声で『〇〇さん、ありがとう。本当に今までありがとう』と言って、足早に立ち去ったとのことでした」