変態か、病的な被害者として演じるか?
田中圭は、今回の役づくりについて「どう演じるのが正解なのか分からず、とても難しかった」と語っている。その理由の筆頭は「変態として演じるか、ある種の病的な被害者として演じるかが、掴みにくかった」からなのだそうだ。
その「ある種の病的な被害者」を、前述した冒頭のビデオ映像で、田中圭は見事に表現したと言えるだろう。そして、田中圭は「なるべく普通の人間として演じて病気に向き合うよう尽力しましたが、セリフを言った後に 、いや、これは変態だな……と思う瞬間が何度もありました(笑)」とも語っている。
ネタバレになるので詳細は避けるが、その田中圭が演じるにあたって抱えていた「主人公は変態であるか否か」という議題についての問答を、クライマックスでは物語上でも提示していたとも言える。
それは、ほぼほぼブラックコメディ的なものでもあり、個人的には大笑いしてしまった。だが、良い意味でまったく笑えないという人もいるだろう。前述した通り、人に言えない望みや欲望、転じて変態性は、誰しもが少なからず抱えているものだろうから。
この役をやれるのは田中圭しかいない
城定秀夫監督は、本作における田中圭を「今までの田中さんのイメージにはない奇矯なキャラクターなのですが、撮影が始まり程なくして、 この役をやれるのは田中さんしかいないのではないかと思いました。そこにいたのは、もはや田中圭ではなく東山春人そのものだったのです」と絶賛している。
筆者個人としては、田中圭はこれまでも表向きは善良でも、ドス黒い内面を抱えていたり、一皮剥けば悪意を噴出させるような、「正しくない役」も演じてきたので、観る前から「この役にはめちゃくちゃ合いそう」とは思っていた。だが、その予想をはるかに超えて、城定監督の言うように「この役をやれるのは田中圭しかいない」とまで思えたのは、やはり俳優としてのこれまでのキャリアと、そして弛まぬ努力があってのことだろう。